黒 の 主 〜冒険者の章・六〜





  【75】



「貴方の地位をあの男に明かしたのですか?」

 後ろにいた魔法使いの一人に言われてフロスは苦笑した。
 最後の言葉――彼の置き土産でこちらが少し困るのも、あの男の思惑通りの、多分、嫌がらせだろう。

「えぇ、バレてしまったので明かしたのですよ。私もこれ以上彼から嫌われたくなかったですしね。まったく、頭のいい男です、恐ろしいくらいに」
「……頭がいい、ですか? あんな魔力の全くない、体で戦うだけの男が……我々よりも?」

 フロスはそこで軽く笑う。ここに残っている連中はギルドの魔法使いでもそれなりに能力の高い者達ばかりだ。だからこそ魔法使いであるという事に選民意識のようなものがあり、魔力がないあの男をどうしても下に見てしまう――おそらく、あの男を敵に回したら破滅するのは彼らの方だろうと思うのに。

「そう、我々とは別の方向で頭がいいんですよ。なにせ私は自分の力も計画も話していない部分を全部を当てられてしまいましたし、あの狡猾な魔女はまんまと裏をかかれた訳ですから」

 フロスもまた、当初は彼らのようにあの男を見下していた。だが……多少頭の回る力自慢の魔力なし男、なんて思っていたらぞっとしたというのが今回の仕事で得たあの男への感想だ。
 確かにあれはイレギュラーな存在なのだろう、と今のフロスは大いに納得していた。

 ――地上の敵をあらかた回収して、地下の部屋へ行ったあとのこと。わざわざ自分を呼びつけて何の用があるのだと思ってはいたが、そこであの男は言って来たのだ。

『ここにいる連中を結界の外、魔法ギルドの連中のところへ送る穴を作ってくれるか? あんたには出来るだろ?』

 正直何故分かったのかと最初は驚いた。ただ彼の性格を多少はそこまでで把握していたから、それはまだただの予想でこちらにカマを掛けてきただけだとフロスは判断した。

『何の話でしょう? 空間結界を張っているから転送でも外には出れない、と言った筈ですが』
『あぁ、確かにその結界のせいで普通の空間魔法使いなら出られなくなるんだろうな。だがあんたには出来る筈だ。なにせあんたは断魔石で魔法が遮断される場所でも出口が中にあれば移動できる。それなら同じように予め出口を設置済みなら結界の外へも出られるんじゃないのか? ……つまり、本当はあんたが一度に開けられる穴は三つで、既に一つ外に設置済みだ、違うか?』

 そこでフロスは、合流してエルの話を聞いた時点から彼がその事を疑っていたのだと察した。だからこそこちらにわざわざ『一度にいくつまで穴を開けられるか』と聞いてきたのだろう。
 フロスはそこで考えた、更にシラを切り通すか、正直に答えるか。

『何故そう思ったのです?』
『簡単な話だ、味方ごと閉じ込めるなら中と外でやりとりする手段を用意するのが当然だろ? 魔女を捕まえたらどうする? 何か危急の問題が起こった時は?』
『結界の傍までいけば話は出来ますよ』

 セイネリアはそれにいかにも馬鹿馬鹿しいという顔で笑ってみせた。

『それは手間が掛かり過ぎる、危急の事態に対応出来ない。……まぁそれならそういう事にしてやってもいいさ、ならもし何か問題が起こって外へ出る、あるいは何かを受け渡しする必要があった場合は結界を一度解くのか? 魔女が逃げるのを承知で? それを想定していないなんて、魔法使いはそこまで馬鹿じゃないだろ? ……だがその辺りの問題は、あんたが外とやりとりできる前提なら全て解決する』

 成程この男を丸め込むのは無理だと、シラを切り通すのをフロスもこの時点で諦めた。ついでに言えば、ここまで言われてはぐらかしたら以後彼から信用してもらえなくなるという計算もあった。

『……えぇ、確かに貴方の言う通りです。出口の一つは結界の外に作ってあります』




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