黒 の 主 〜冒険者の章・六〜





  【74】



「まぁいい、魔法使いが大嫌いなのは元からだ。だが、だからと言って魔法使いを排斥しようとは思わない。この国における魔法使いの役割を考えれば、排斥なんてことをしてもデメリットしかないのが分かってるからな。俺としては益がある者なら手を組むし、邪魔なら排除するだけだ、それは相手が一般人でも魔法使いでも変わらない」

 セイネリアのその言葉に、フロスは僅かに満足そうに笑った。

「えぇ、貴方はそういう人間です、だから教えても大丈夫だろうと判断しました」
「それで、俺が魔法使いの知識を手に入れることで、貴様らには何のメリットがある?」

 だがすかさず聞き返したその言葉には、フロスはすぐに返事を返す事はなかった。他の魔法使い達が彼の後ろでこそこそと話し合っている。フロスは考えているのか暫く黙って、それから徐に口を開いた。

「……我々の中にも、予知をするものがいます」

 途端、ざわりと他の魔法使い達が驚きの声を上げる。

「勿論、予知などというものは100%完全に当たるものではありません。ただ、これから起こり得る可能性をある程度知る事が出来ます。その予知が告げたのです、貴方はイレギュラーであると。将来、われわれの在り方に大きな変化をもたらす鍵となる存在になるだろうと。魔法使いどころか珍しいくらいに保持魔力の低い貴方が、ですよ」

――つまりその予知があるから、さっさと俺を魔法使い側の人間にして、奴らが望む方向の変化へ導きたかったということか。

「俺が魔法使いの在り方に影響を与えるなら……お前達を滅ぼす者になるかもしれないぞ。なにせ俺は貴様らが大嫌いだしな」
「それも可能性の一つですがないですね、今回貴方を見ていてわかりました。貴方は感情で動かない、あくまで自分の目的に対してどうするのが良いか、状況に対して冷静な判断で動きます。誰にも影響されない、自分の価値観だけで動く貴方がそこから変わるともそうそう思えません。ケサランから言われてはいたのですけどね……よくわかりました」

 おそらく、自分をどう扱うかという事に対しては魔法ギルド内でも意見が分かれているのだろう。ケサランが放置派で、フロスは積極的に魔法ギルドに引き入れる派というところか。その二つだけでなくもっとヤバイ連中もいると思ったほうがいいだろうが。

「『承認者』様は俺をどうしろと言っていた?」
「彼は……貴方を放っておくべきだと。へたに手を出した方が余計嫌われると言っていましたよ」

 思わずセイネリアはそれにククっと喉を鳴らして笑ってしまった。

「なるほど……やはり奴の方が少なくともあんたよりは分かってるな」
「えぇ、私は……少し焦り過ぎたようです」

 もしかしたらケサランは、セイネリアに対し、積極的に働きかけて魔法使い側に引き入れるべきだ、という輩を納得させる為に今回の仕事を用意したのかもしれない。へたに手を出す方がよくない結果を出すと、それを彼らに思い知らせるための仕事だったと考えれば全て合点がいく。
 あの間抜け魔法使いの思い通りになったというのには少しムカつくが、結果としてこちらも面倒な連中を遠ざけられるというなら仕方がない。ともかく、これ以上はこの仕事についてフロス達に聞く事はないから、セイネリアは視線を彼らから逸らして軽く手を上げた。

「……話は終いだ、俺としてはこの仕事を俺に依頼したその思惑を確認したかっただけだからな、聞きたい事は聞いた、ならもう話す事はない」
「そうですね。今回の仕事はここまでです、ありがとうございました。報告書はこちらから事務局に提出しておきます。報酬は明日以降に取りに行ってください」
「了解した」

 これでセイネリアとしてはもう彼らに用はない。というか、正直に言えば胸糞悪いだけだから顔も見たくない。一応、ケサランには後でいろいろ聞くつもりではあるが、こちらから特に連絡を取ろうとしなくてもその内向うから連絡を取ってくる可能性が高いと思われた。

 フロスが首都に送らせると言えば、後ろにいた魔法使いの一人が前に出てくる。どうやら今回は彼が転送をするのではないらしい。だが、術を唱えるためにその魔法使いが杖を上げたところでフロスが一度止めてこちらを見つめてくる。

「セイネリア。これだけは覚悟していてください。貴方がどれだけ魔法使いを嫌いでも、我々と関わる事は避けられません。貴方の仲間達のように、出来れば関わりたくないなんてことは言えなくなります」

 嘘の笑顔も浮かべられず真剣な目で言ってくる魔法使いに、セイネリアは嫌がらせのように笑って答えた。

「あぁ、わかってるさ、『収集者』フロス」

 最後に、苦々しく眉を寄せたフロスと、驚いてざわつく他の魔法使い達の姿を見て、セイネリアはそこから姿を消した。




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