黒 の 主 〜冒険者の章・六〜





  【7】



「まぁ今回はそっちの魔法使いがいる分別に転送も必要ない。それであんたが寄こされたってことは、その予知が今回の仕事で使えるという事なんだろ?」
「あぁ……まぁな」

 ずっと苛立った声でいた女は、セイネリアのその言葉で少し意外そうに声から険を消した。そうすればフォローなのか魔法使いが口を出してくる。

「なにせ今回は誰が狙われて尻尾をつかめるかまったく手掛かりがありませんから。彼女に予知してもらって可能性があるものを全部チェックしようという話なんですよ」
「……確かに、手掛かりがまったくない状態なら予知にでもすがろうというのはアリか。戦力にもなりそうだしいいんじゃないか。まぁ二人ともよろく頼む」

 セイネリアとしては使えない無能人間や、味方のふりをした敵でなければ別に誰でも構わない。いや、そうであってもそれはそれで面白いと思うが、さすがに魔法使いが寄越した人間が敵の回し者という事はないだろう。

「えぇ、よろしくお願いします」

 即答で返事を返した魔法使いと違って、やはりどこか気の抜けた顔をしたレンファンは一呼吸遅れてから静かに答えた。

「あぁ……よろしく、頼む」

 そこから後は逆にエルやカリン、エーリジャの説明を彼らにして、後は予定通り明日からの各自の行動を打ち合わせて決めた。遅くなって夕飯もそのままそこで取る事にはなったが、エルとセイネリア以外は酒は入れず食事だけをしてその日は解散という事にした。

 ただし、席を立って解散を宣言した後、セイネリアは隣にやってきたレンファンから耳打ちされたのだが。

『出来れば今日の内に少しくらい娼館を回りたい、付き合ってくれないか?』





 実を言えば、セイネリアがその日の集まりに遅れたのは先にワラントの館に寄って来たせいで、カリンと合流するついでにマーゴットが用意した資料に一通り目を通して来たからであった。
 だから酒場についた時にはカリンやエル、エーリジャのいつもの三人の役割はだいたい頭の中で決めてあったのだが、魔法ギルド側からの二人の能力によっては計画自体を修正する必要があった。
 魔法使いの方については移動が楽になる程度の話だからそこまで大きな修正は必要ないが、レンファンの予知能力についてはそれを当てにするなら計画の組み立て方が大きく変わる。
 とりあえずは、彼女の提案で一通りの娼館を回って予知として怪しいものを感じた場合、手分けしてそこをマークする、という事になっていたのだが……。

「許されている場所だけでいいが、娼館内部は一通り見て回りたい、その方が予知の精度が上がる」
「そういうものなのか?」
「100%当たるものではない分、数で補おうという訳だ。同じ娼館内でも多くの場所を『見て』回れればどこかひっかかるモノが見えるかもしれない。複数見えれば正解である可能性も上がる」
「成程」

 自分ではハズレだと自虐的な事を言っているが、実際彼女は自分の能力をどう使うのが一番効果的で役に立つかかなり考えて使って来たというのが分かる。自分の能力をアピールしてそれを軸にした計画を進めたいと言って来たのも、使えないように思える能力がちゃんと役に立てるというところを見せたいという気持ちがあるからだろう。

 セイネリアとしては、そういう人間は嫌いじゃない。

 持っている力に胡坐を掻いて大して工夫しない者よりも、限られた能力を生かそうと努力する人間の方が面白い。だから彼女の計画に乗ってやった。この手の人間は認められたいという欲求が高いから、チャンスをやれば最大限の力を発揮してくれる筈だった。
 実際、最初の不機嫌そうだった印象とはうって変わって、彼女の計画を採用してからのレンファンの表情は生き生きとしていて声にも自信が滲みでていた。こうして少しでも早く仕事を始めたいと言い出すところも、今回の仕事の仕切り役であるセイネリアに能力の説明を詳しくしてくるのも、早く認めてもらいたいというその気負いの現れだろう。


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