黒 の 主 〜冒険者の章・六〜





  【65】



 一方、セイネリアが去った後の残りの面々のところへは、セイネリアの予想通り、兵士が押しかけてきていた。
 ただその勢いのまま突っ込んできた最初の先頭連中は、前にいた三人が上手く誘導して避けただけでおもしろいように穴に落ちてくれた。その後の数人までは各自足を引っかけたり背中を押すだけでやはりぼろぼろと穴に落ちて行き、処理のペースは早かった。
 とはいえいつまでもそんな順調にいく訳もない。
 連中も穴に警戒しだせば、誘って穴へ落として終わりとはいかなくなる。だからそこからは切り替えて、一旦敵をふっ飛ばして倒れた者を穴に放り投げる事にした。

「随分気合いが入ってるなぁ」

 一番多人数を相手しやすい武器というのもあるが、やたら気合いの入った青髪のアッテラ神官を見てエーリジャは思う。まぁ両脇に女性じゃ自分が前を張るしかないと彼が気負うのも分かる。あれで根は結構真面目だからなぁ――などと他人事のように思いながら、エーリジャは戦っている彼らの更に先の敵を冷静に見て矢を放つ。

「エル、一度下がって」
「おうっ」

 気合いが入り過ぎた所為か、少し前に出過ぎた彼に声を上げる。なにせ年長者としてもだし、武器的にもエーリジャに期待されているのは全体を見て戦況を判断する事である。セイネリアがいないなら、指示もそれに含まれる。
 役目以上の責任だとあの黒い若造には文句を言いたいところだが――だからこそ、女性を前に出して後ろにいるなんて事が許されるのだから仕方がない。

「まだいたのか」

 エルが下がって敵と距離が空いたせいか、後方から弓で狙おうとしている兵士を見つけてエーリジャはそいつの肩を射貫く。最初の内に射手は全て片付けた筈だが、いつの間にか新手がやってきていたらしい。
 そこからすぐにエルと敵が接触したのを見て、今度は少し後方にいる、体格のいい男の振り上げた腕を撃った。そこで男が崩れた一瞬、見えた足にも念のため撃っておく。何か怒鳴りながら腕を振り回していたところからして、おそらくあれも魔女の『お気に入り』なのだろう。倒れてもがいている男を確認してから、エーリジャは横で扉を支えている魔法使いに聞いた。

「それで、魔女は見えたかな?」
「いえ……まだじっとしているようですね」

 魔法使いは一定以上の大きな魔力なら障害物に関係なく見えるという事で、魔女が動けば彼には見つけられるらしい。現在は見えないところに隠れているという事で、フロスは敷地内を見張っていた。

「やっぱりまだ魔女には余裕がある……らしいからね」

 黒い若造が言っていた言葉を思い出し、エーリジャは新たな矢を番える。
 ただセイネリアはこうも言っていた、『まだ余裕があるからこそ行動が読めるのさ』と。

――何を考えてるかは分からないけど、考えがあるというなら期待させてもらうさ。

 本当に自分は随分とあの若造を買っているらしい。呆れながらもエーリジャは唇にのぼる笑みを抑える事が出来なかった。





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