黒 の 主 〜冒険者の章・六〜





  【57】



 そうして――結局、セイネリアの予想は当たる事になる。もっとも、当たっていたからといって対応を考えていた訳ではないからたいして意味はないが。
 セイネリアが例の化け物を倒して皆を追って別の部屋へ行ってみれば、彼らもそこで警備兵らしき者達と戦闘中だった。

「こいつらは最初から待ち構えていたのか?」

 現状、他の連中だけで問題なく抑えられると思ったセイネリアは、戦闘に参加せずに魔法使いのもとへ行った。なにせあまり広くない部屋だったため、この魔槍では戦い難かったというのもある。

「いえ、見た時はここには誰もいなかったのですが、来て暫くしたらやってきた、というところです」

 ならやはり、こちらの移動した場所は基本魔女には見えていると考えた方がいいだろう。兵が待ち構えていなかったというなら、到着した途端にこちらを襲えと指示を出したと考えられる。もしくは事前にこちらが来たら襲うように暗示を入れておいたか。

「とりあえず移動するぞ。それでも敵がいるようならまた別の部屋へ、何度か移動を繰り返す、悪いが大いに働いてもらうからな」
「構いませんよ、何か考えがあるんですか?」
「単に部屋の確認と、魔女の出方を試してみたいだけだ」
「……まぁ、いいでしょう」

 それで魔法使いはまたすぐに転送の為の穴を壁に開ける。敵が途切れたところで皆に移動するように指示し、セイネリア自身は最後に入る事にした。考えた末に魔槍はそこへ投げ捨てる事にして、代わりに腰の剣を抜いておく。どうせ使う時にまた呼べばいいだけの話だ、持って歩いても邪魔以外の何物でもない。

 次の部屋もやはり入った最初は特に何もいなかったものの、そのうちばたばたと敵が廊下からやってきた。これはこちらの動きを見る度、魔女が指示している方だろうとセイネリアは思う。
 そこから更に次の部屋へいっても同じで、そこから更に次の部屋に行って……そこは倉庫のようなところで兵士は少なかったのだが、どうやら生活用品や食料というより、貴重品……というか持ち出されては困るものを置いている場所らしかった。
 なにせ、この部屋は出入り口がない。
 地下のセイネリアがいた部屋と同じように転送でしか入れない場所だった。兵も一応の見張り程度の2人だけで、倒した後はやってきていない。

「これはまた、大したものだ」

 魔法使いの呟きが本当に感心しているのが分かるから、恐らくここにあるのは魔法関連のモノと考えて間違いなさそうだ。

「……つまり、あんた達魔法使いにとってはお宝の山というところか」
「そんなところです」

 魔女自身の倉庫というところか――部屋の広さや、天井の高さを見てセイネリアは考える。

「他にこの手の、転送でなければいけない部屋、というのはあるか?」
「えぇ、いくつかありますよ」
「なら次もその手の部屋へ移動だ」
「分かりました」

 魔法使いは黙ってまた穴を開ける作業に入る。杖で円を描いて、術を唱えて……苦い顔を少しもしないのを見ると、この術自体はそこまで負担のかかるものではないのだろう。

「てか、どーゆーつもりだ? 敵はもういなくて誰もこない場所なら少し休憩ってのもありだと思うがよ?」

 エルが寄ってきて言った言葉で他の面々の顔も見れば、確かにエルと同じ疑問は持ってはいそうだが今すぐ休憩しないとならないほど疲れている者はいなさそうだった。

「まぁ、今は相手の様子見と、この場所の確認みたいなものだ。方針が決まったら言うさ」
「考えはあるんだな?」
「まぁな」

 そうすれば、エルはまだ疑問を残したままのしぶい顔をしはしたがそれでも文句を言ってくることはなく、穴が開いたと魔法使いが言えば大人しく従って次の部屋へと移動した。

 そうして移動した次の部屋は――敵は襲ってこなかったが明かりが一切なく、暗闇がただあるだけだった。

「ランプをつけるね」

 エーリジャが言ったと同時に、明かりが灯る。
 そうして見えた光景に……皆が皆、息を飲み、暫くは声も出せなかった。




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