黒 の 主 〜冒険者の章・六〜 【5】 冬に入りかけたその日の空は青く澄んでいて、そうして綺麗に晴れた日の方がこの時期は寒い。それでも昼過ぎになれば日差しのせいでどうにか少しは暖かなくなり、日陰と日向の温度差が開く。 普通に首都から出かけるような仕事なら早朝に集まるのが定番ではあるが、今回の仕事はまず調査をしないと始まらない。というか仕事は今日からでも実質今日は顔合わせと情報の整理、つまり話し合いだけで終わるだろうと予想していた。 だからこそ集合は昼で、集まるのは昼から開いている大き目の酒場だ。朝の冷え込みを分かっている分、それを告げた時のエルの返事は『そりゃ助かる』で彼らしいと笑ったものだが、カリンとエーリジャは早朝の行動も慣れている為、逆に『昼からでいいのか』と返事が返ってきたのと比べると対照的だった。 セイネリアがケサランに示した『ただし』の条件は一つだけ。今回の仕事をセイネリア単独で受けるのではなく、パーティとして受ける事であった。あれだけのお膳立てをしてくれたのだから恐らく、と思っていた通りケサランはセイネリア単独に仕事を依頼するつもりだという予想は当たっていて、それを告げた時には彼はまた顔を顰めた。 『こちらの事情に関わる話だからな、出来れば最少人数で動いてほしいところなんだが』 『なら俺は受けないぞ。一応固定パーティーだからな、俺一人で評価が上がりすぎると後々面倒だ。それに言っておけば俺が組んでいる連中だ、当然口の固さは保証する』 それで了承を返すしかなくなったケサランだが、口の固さについては随分と念を押されはした。そもそも彼らがセイネリアに依頼をしたのは、多少なら事情を話してもいい存在である、という事もあっただろうからいい顔をしないのは当然だろう。 ともかく、おかげでなかなかの人数になったから、最初にきちんと互いの事を教えあっておく必要もあるだろう。だから今日はほぼ話し合いだけで仕事が終わると予想したのだ。 「お、やっときたのかよ。珍しいな、お前さんが最後なんて」 セイネリアがカリンを連れて酒場に顔を出すと、まずエルが茶化してそう言ってきた。勿論セイネリアはそれにいちいち反応せず、いつも通り無視して空いていた席に座った。カリンもすぐその隣に座る。 「俺がいなくても無事揃ったようで良かった、自己紹介はしたのか?」 ここが前回ケサランと話したのと同じ酒場である事からここの席はその時にあの魔法使いの名前で予約しておいた。だから互いに顔を知らない同士でも無事合流出来ると分かっていたのもある。 「あー、名前だけはな。どうせお前が来てから細かい自己紹介すんだろうしさ」 「成程」 こういう時に仕切っておいてくれるのがエルの優秀なところだ。魔法ギルドの方でよこした二人をちらと見て、少々気難しそうだと思ったからこそあまり深くつっこまなかったのだろう。 「なら俺もまず、初対面の連中には軽く名乗った方がいいか?」 その二人を見ていえば、彼らは揃って答えた。 「いや、必要ない。貴方の噂はよく聞いている」 「こちらも必要ありませんよ、やはり聞いていますから、セイネリア」 それには思わず、だろうな、と呟いて。初対面である二人をセイネリアは観察する。 まず一人、魔法使いと思われる男は確かに魔法使いらしいローブを着てはいるがそれは旅用なのか裾が短めでひざ下程度しかなく、使い古した感のある手袋とブーツ着用という段階で魔法使いとしては割合出歩いているタイプの人間だろうと思えた。 ――足手まといにはならない、と言っていたのはそのあたりか。 「私の名はフロス、見ての通り魔法使いです」 言葉遣いは丁寧で、雰囲気は穏やかで神官ぽくもある。魔法使いという段階で得体が知れないところはあるが、ともかくケサランがよこしたのならそこまで面倒な人間ではないと思いたいところだった。 「私はギルドでは空間系魔法使いに属します。まぁ穴あけと空間移動程度の能力です」 「穴あけ?」 「えぇまぁ、それは見せた方が早いので現場に出たらお見せしますよ」 --------------------------------------------- |