黒 の 主 〜冒険者の章・六〜





  【3】



「まぁな、はっきり言えばお前に断られると困る」
「内容はなんだ?」
「最近、首都で行方不明者がかなり出ている」

 テーブルに肘をついて顎を乗せていたセイネリアは、それで顔を上げる。おそらくだが、自分に受けてほしいという理由もこの時点で大体察しがついた。

「勿論、行方不明者自体は別に珍しいことではないし、騒ぎになる程大量に人が消えている訳ではない」
「だな、それにそもそもそういうのは警備隊の仕事だ」
「あぁ、確かにそうだ」

 セイネリアはわざと含みのある笑みを口元に乗せて聞き返す。

「なのにあんた達がわざわざ気にするという事は、それに魔法使いが関わっている可能性が高いということか?」

 ケサランはまた分かりやすく顔を顰めた。

「本当に、嫌な事ばかり頭の回る男だな」
「だからこの性格で今でも生きてられてる」

 そうだろうな、と呟いて、魔法使いはテーブルに肘をついて少し顔を近づけてくると、声を落として言ってきた。

「お前の言う通りだ。この件は魔法使いが関わっている可能性が高い。なにせこの件で行方不明になった者達は大抵、後で何度か目撃されている」
「つまり本当の意味で行方不明ではない、という事か」
「あぁ、本人が自ら姿を隠している可能性もある」
「自ら姿を隠すような事態に、あんたたちは思い当たるものがある、という訳か」

 それにはさすがに即答は来ない。魔法使いは顰めた顔で暫く黙ったまま、はぁ、とまた嫌そうにため息をついて口を開いた。

「……まぁな。あるから調べている訳だしお前に仕事を頼むんだ」

 やっぱりここでも魔法使いは正直に答えてきて、セイネリアは思わず鼻で笑ってしまった。

「ならその心当たりを教えろ、というのは無理なのか?」
「あぁ、今はまだ言えない」

 ならつまり、言えない程の事ではないが出来ればいいたくない、くらいの理由があるという事だろう。ここで今更勿体ぶるものかとも思うが、おそらくは彼個人ではなくギルドの意向と考えられる。大方『出来るだけ隠せ、ただし最悪知られても黙っているならいい』辺りか。
 セイネリアはわざと考えている素振りを見せた。そうすれば魔法使いは少し苛立った声で身を乗り出して言ってくる。

「こっちの心当たりが当てはまりそうなら教えてやる、違っていたら余計な事を教えたくないだけだ」
「なら……」
「分かってる、どこでそれを判断するかだろ? そのために今回はこちらから同行者を出す」

 セイネリアは少し皮肉気に笑みを作って、睨んでくる魔法使いに言った。

「つまり、細かい指示はそいつに従え、必要があればそいつが情報を出してくれる、という事か?」
「そういう事だ。あぁ言っておくとな、心配しなくてもちゃぁんと使える奴をよこしてやる、足手まといにはならん。あともう一人、今回の仕事でいれば役立つと思う能力持ちの人物にも声を掛けてある、その人物と共に仕事を行ってほしい」

 まったく何から何まで……こちらに文句を言わせない為か、この魔法使いは相当にいろいろ考えてお膳立てをしてくれたらしい。どうしてもこちらに断らせたくなかったとはいえ、ご苦労な事だと他人事として関心する。

「それはまた、何から何まで有り難い事だな」

 だからそう言ってセイネリアが喉を揺らして笑えば、魔法使いは益々顔を顰めて力を込めて言って来た。

「他にも何かあれば出来る限りの用意はする、で、仕事は受けるのか?」

 セイネリアは笑ったまま腕を組んで、彼に向かって了承の返事を返した。
 とはいえ、ただし、と条件を付け足して。


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