黒 の 主 〜冒険者の章・五〜





  【4】



「なんの用だ?」

 当然、彼らに対するセイネリアの態度はいかにも機嫌が悪そうなモノになる。それに少し腰が引けた様子を見せる者もいたが、流石にアジェリアンは気にせず傍に座って話しかけてきた。

「なに、実際の戦闘が近そうだからな、一度ウチの連中とあんたのところで連携をとれるよう話し合っておこうと思ったのさ」

 妙ににやにやと楽しそうに言ってくるアジェリアンには嫌な予感しかしなかったが、内容が内容だけにカリンやエーリジャも集まってくるに至ってセイネリアはまた起き上がった。胡坐を掻くと、それで、と上級冒険者である騎士の男に目を向けた。

「基本的に、敵と真正面からぶつかるのはこちらは俺とラッサ、ヴィッチェとデルガだ」

 言うと同時にアジェリアンの横に言われたラッサとデルガ、それに女剣士のヴィッチェが並ぶ。ラッサとデルガはあの樹海の戦いで見ているから分かるものの、ヴィッチェは女とはいっても流石に剣士と言うだけあって腕にしっかりと筋肉がついていて体格がいい。

「こちらは俺だけだな、状況によってはカリンに俺のフォローについてもらう」

 それに返してセイネリアが言うと、そこでエルが手を上げて発言する。

「あー俺は今回お前らの方についてくぜ。アッテラ神官はもう一人いるしな」

 それにはアジェリアンの部下であるアッテラ神官、クトゥローフが苦笑して肩を上げた。

「あぁそれでいいぞ。何せそっちのが若い。俺は後衛連中の護衛をしとくよ」

 アジェリアンよりも年上の男は冒険者としてはいい歳であって、だがさすがにアッテラ神官だけあって体つきは相当鍛えたもののソレだった。

「メインの後衛の護衛はいつも通りネイサ―だ。今回は後衛が多い、頼むぞネイサ―」

 言われてアジェリアンが後ろを向くと、彼の部下の中では一番体の大きな男がこくりと真剣な目で頷いた。最初の自己紹介ではこの男はヴィンサンロア信徒という事で、だからひっそりと近づいてくる気配の察知には優れているという話だった。後はその体格を生かして、いざとなれば自分の体を盾にしてこの隊唯一の完全魔法職であるリパ神官を守るのが彼のいつもの役目らしい。

「怪我をして動けない時はいつでも呼んで下さい。すぐに治療に向かいますので」

 そのリパ神官である女――名は確かフォロと言った筈だが、彼女がそこでアジェリアンの隣に無理矢理入り込んで言ってくる。アジェリアンは苦笑していたが彼女を見る瞳は優しく、まぁそれなりの仲なのだろう……というところまで推測出来た。

「護衛さん達に手間を掛けさせないように、出来るだけは近づく前にどうにかしたいと思っているけどね」

 そこでエーリジャが言ったことに、アジェリアンが笑う。

「あぁ、あんたの弓には期待してる」

 聞けば前に、エーリジャはアジェリアンのパーティに誘われた事があるそうで、だからこそ彼の腕はアジェリアンも知っているところなのだろう。

「基本後衛組みは騎士団の連中の後衛組と一緒にいてくれ。ただ当然、乱戦になって離れ過ぎそうになったらこちらと合流もあり得る。後、敵に向かう側の連中も基本は二人か三人組で行動するように。単独行動は避けろ――と、お前の武器は傍に人がいない方がいいんだったか?」

 アジェリアンがセイネリアを見て言う。セイネリアはそれには僅かに眉を上げ、それから面倒そうに答えた。

「いや、今回は出来るだけあの槍は使わないつもりだ。基本は剣だ、だからカリンにフォローに入って貰うさ」
「そうか……それなら俺としては、ぜひお前に背中を預けてみたかったんだが」

 セイネリアは笑って返してやる。

「そうだな、あんたと組めばいくらでも敵を倒せそうだ」
「あぁ、とんでもないポイントが稼げるぞ」

 アジェリアンも楽しそうに声に出して笑う。それで彼は立ち上がったから、彼の仲間もそれと共に立ち上がって辺りに散る。

「まぁ、状況によっては背中を守る事もあるだろうよ」

 言えば上級冒険者の騎士は振り返って、嬉しそうに笑うとセイネリアに言った。

「そうだな、その時は頼む」
「あぁ」

 だが、その時の言葉はまもなく実現する事になる。それはそこから丁度三日後の事、偵察部隊が襲われ、それがそのままそこそこの人数を投入する戦いになった時の事であった。




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