黒 の 主 〜冒険者の章・三〜





  【6】



 太陽はまだ昇ったばかりで西の空には夜の名残が残っている。
 門をくぐる人間も少ない時間、パーティは朝日を背負って街を出た。
 そこで歩きながらやっとというべきか、ソレズドから正確な行先やら予定やらの説明がセイネリア達にもされた。仕事はエレメンサ退治――とは言われていたものの、実際は単純にそれ自体が目的ではなかった事がそこで初めて判明する。

「やる事はエレメンサ退治でそれが出来る人間としてあんたを呼んだんだがな、本当の目的は水晶魔鉱石だ、とんでもなく含有魔力の高い……な。そこにエレメンサがいる」
「成程、その鉱石を採取する為にエレメンサ退治か」
「そういう事だ。場所を他人に知られる訳に行かなかったから事前に言わなかった、そこはすまないな」
「構わん、それで依頼主がいないのか。まぁ金にはなりそうだが」
「あぁいい金になる、勿論ちゃんと人数で山分けだ」

 いかにも気前の良さそうな言い方をしているが、金銭目的だと益々怪しいと思わなくもない。
 魔鉱石というのは名前の通り魔力が最初から篭っている石で、魔法使いが特殊な魔法効果のあるアイテムを作るのに使用される。当たり前だが高い魔力が入っていれば入っている程高度な魔法効果をつける事が出来、高値で取引されるからエレメンサ退治の危険を冒すだけの意味はあると言える。しかもそれが水晶タイプの魔鉱石となれば更に値段が跳ね上がるから、仕事当日までその部分を伏せていたというのもなんらおかしくはない。

「ふぅ、歩いても歩いても着く気がしないな」
「見える割りには距離があるからな、おぶってやろうか?」

 先頭を行くセイネリアとソレズドの後ろでモーネスが言ったから、セイネリアは笑って振り向いた。

「いやいいさ、さすがに出発直後のリシェまでの道も歩けないとなると冒険者を引退しろと言われるからな」
「それはその通りだな」

 首都セニエティから少し西に行ったところにはリシェという港町がある。距離としてはのんびり歩いても半日かからないのだからかなり近く、首都への海からの玄関口としての役目を担っていた。おまけにこれだけ首都に近いのに王領ではなく別に領主がいて、その領主の方針で実質街の運営は街の有力者による議会によってなされていた。港町の有力者といえば当たり前だが商人で、だからこそ商人のための街として小さいながらも活気があって裕福な街として知られていた。
 今回セイネリア達はそのリシェから船に乗って一気に南下する予定となっていた。
 移動は出来るだけ金を掛けないのが基本の冒険者としては、リシェへ行くとなれば当然ながら歩きとなる。だから、首都からリシェまで歩けないのなら引退を考えろ……と言うのは酒の席などでよく言われる冗談の一つでもあった。
 首都からリシェまでは街道で一直線で、そこまでは延々と田園風景が広がっている。見通しが良すぎるからリシェの街とその先の海面の煌めきは首都を出ればすぐ見ることが出来るが実際たどり着くまでには思ったより掛かる。歩いても歩いても近づく気がしない……というのもまた、冒険者間の酒場ネタとしては定番であった。

 それでも、旅慣れた冒険者の足ならリシェまでは近い。出発が早朝だったせいもあってまだ朝と言える時間に余裕をもってリシェについた。ただし、余裕がありすぎたというべきか、乗る予定の船が出るまでにはかなり時間があり、ならば一旦解散してそれまでに各自買い物をして昼食後に改めて集まる事になった。
 まぁ、それ自体は問題ない、とセイネリアは思う。
 リシェはあまり来ないから、何か使えそうなものがないか露店を物色してくるのも悪くないし、食事だって腹の探り合いになりそうなソレズド達と一緒になんてことになったら美味いものも不味くなる。
 ただ問題は、セイネリアが歩く方向にカリンが付いてくるのは当然として、エルもまた付いてくる……のまでは予想していたが、その後にちゃっかりリパ神官のモーネスまでもがついてきたことだった。





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