黒 の 主 〜冒険者の章・2〜





  【3】



「……そういや、知ってますかね? 樹海で大きな火災があったそうで、その後大騒ぎになってるそうですよ」

 暫くどこぞの街の女は……などという話が続いて少し退屈していたセイネリアだったが、その話には少しだけ興味が湧いて聞き返した。

「いや。まさかまだ燃えてるのか?」
「いえ、そりゃ魔法使いや神官連中ががんばって消したらしいですけどね、問題はその後で」
「どうしたんだ?」
「火事のせいで樹海にいた魔物やらヤバイ動物やらが外に逃げて、あちこちで暴れてるらしいんですよ」
「ほう……」

 かつてファサンという国を併合した時から、クリュース領土の南には広大な樹海が広がっている。もともとはそこの調査をさせるためもあって冒険者制度が出来たというのもある分、樹海行きの仕事は転送サービスなどの補助もあるし、ポイントが追加でかなり高くつくという利点がある。ただそれだけの利点を差し引いても尻込みするだけの危険が伴う為、実際のところ樹海行の依頼というのは少なかった。自分で勝手に調査に行ってもいいのだが、価値の高い何かを見つけられれば見返りは大きいものの大したものが見つけられなければただの骨折り損となる。最悪自分の行ったルートを地図にするだけでも国からポイントと報酬は貰えるものの、一人でふらっと行けるような気楽な場所ではない。だから行くなら仲間を募って報酬は分ける事になるのだが、それでは余程ポイントだけが欲しいというのでなければ労力に見合わないことになる。

「最初は村単位で冒険者雇って撃退したりしてたそうなんですが、それで対処できるような数じゃなくなって村人全員が城壁のある街まで逃げて来る事態になってるらしいです」
「……となれば、そろそろ領主か国が動くか」
「ですね、大規模な募集が入ると思いますよ」

 結局、樹海の仕事に関して言えば、一気にポイントを上げたい腕に自信がある者なら樹海の仕事はぜひしたいが、どこかの金持ちか領主が募集してくるのを待つしかない、という状態だった。
 だから、この情報はセイネリアにとってかなり興味深い。

「ただもし領主か国が募集を掛けたとして、今回それは樹海の仕事として追加ポイントがつくのか? 樹海の外の仕事扱いじゃないのか?」
「そこはどうなんでしょうね、ただ相当人数を集めるってぇ話みたいですから、樹海の仕事扱いにして呼び込むんじゃないですかね」

 それは確かにそうだとセイネリアも思う。国は、評価ポイントを出す事によって報酬の一部を貰って冒険者制度を運営している。評価ポイントというのは制度が価値をつけているだけで元は無料(ただ)で無からいくらでも発行出来るある意味錬金術のようなシロモノだ。人を集めるためのエサとしてどれだけ出そうが国として懐が痛む事はない。

「……ただ、それで気前よく高ポイントを提示してきたら、相当ヤバイ仕事だって事でもありますがね」

 臆病だった所為で危険に敏感になった男らしい発言に、セイネリアは、当然だな、と軽くそう返した。いや、軽くというか、我ながら楽しそうだったかもしれないとは思う。なにせ聞いた途端、男が顔を引きつらせたのだから。

「俺としちゃぁ、あんたにはぜひ無事なまま成り上がってもらいたいと思ってるんですがね。そうすりゃこっちはおこぼれに預かれる」

 正直すぎる男の発言に、セイネリアは笑った。



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