黒 の 主 〜冒険者の章〜





  【21】



「まぁそういう訳でだ」

 そこでいきなりアッテラ神官が大声を出したことで、セイネリアは意識を彼に切り替える。

「危険な仕事を受けようって奴は、バカ強いって噂のお前を誘っておきたい思う……ただお前はなんていうか見た目からして黒くて不気味でおっかないし、ヤバそうで話しかけ難いだろ」

 声を出しはしなかったが、そうだろうなとは我ながら思う。
 だから特に反応しなかったのだが、そこでアッテラ神官は真剣な顔をしてセイネリアを指さした。

「そんなお前と俺が仲良さそうにこの口調で話してるとだ……すげーエルあいつと友達かよ、ってなンだよ」
「あぁ……」

 そこでセイネリアは彼がここまで段階を踏んで言いたい事が多少は分かった。
 つまり彼が説明したいのは、馴れ馴れしい口調で自分に話しかけるその有用性だろうかと。尚も神官は真剣な顔で熱弁を振るう。

「そう認識されるとだ、お前を誘いたいけど躊躇してた連中は俺に話しかけてくる訳だ、『あのセイネリアって奴はどうなんだ』ってな。そンで俺は言うんだ『腕も性格も信用できる男だ、ただ怖ぇって噂と話し難いって噂は本当だ』すると向こうもきっと悩む訳だ『そうか、やっぱり気難しい男なのか』そこでドーンと俺が言ってやる訳よ『だったらあいつに話つける役は俺がやってやるぜ』ってな。ここで俺とお前が友人だって認識されてりゃ『じゃぁ頼むエル』ってなる訳でな、お前も俺もいい仕事に呼ばれてめでたしめでたしとなるんだよ」

 説明をするのかと思って聞いていたら一人芝居を見せられた――そんな気分で思わず黙って彼を見ていたセイネリアだったが、彼の話をトータルで考えれば一応理解できた事はある。

「……つまりだ、俺へのつなぎ役として信憑性をあげる為に有用だからこのままの口調で許せという事か」
「まぁそんなとこだ。悪い話じゃねぇだろ」

 にかっといつも通りの裏表のない笑みを浮かべた男に、セイネリアは呆れるしかない。

「確かに悪い話じゃないが、俺へのつなぎ役認識でいいのかお前は」

 話の通りだと、まるで彼はおまけで呼ばれるような状況になる。それでもいいのかとセイネリアは言ったのだが。

「いいぜ、お前に付き合えば俺は割りがいい仕事を受けられる。俺ァお前と知り合ったこの幸運を上手く有効活用しようってだけなんでな」

 笑みをまったく崩さず即答した男の顔は、少なくとも何も考えてない馬鹿の顔ではなかった。何を利用しても這い上がってやるとその覚悟と気力を感じられて、だからセイネリアも自然と唇に笑みが上る。

「その分危険だぞ」
「だがお前がいりゃどうにかなンだろ」
「俺でもどうにもならない事があるかもしれない」
「そういう時、俺がいればどうにかなるかもしれねぇじゃねぇか」

 それも間違っていない……かもしれない。少なくともセイネリアが出来ない事をこの男は出来る。なら組めば必ずプラスになる。

「確かにな、期待しすぎないくらいに期待しておく」

 彼のように軽口風に言えば、アッテラ神官はにっと歯を見せて思い切りの笑みを見せた。

「おう、俺は目いっぱいあんたに期待しとくぜ、セイネリア」

 それで手を出されたから、あぁ握手かと手を出して彼の手を握ったセイネリアは、そこでようやく彼に対してあった自分の中の違和感の正体が分かった気もした。
 この男が役に立つ、組んでもいいだけの人間だと、理論では最初からそう答えが出ていたのにどうして向こうから近づかれ過ぎた事が居心地が悪かったのか。それは単純にそういう距離感の人間を認めた事がなかったから――いわゆる、友人、というのを自分は作ったことがなかったなとそう思う。

 彼が友人になるかどうかは分からないが、今のところ一番それに近い人間ではあるのは確かだろうなとセイネリアはそう思った。



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