黒 の 主 〜冒険者の章〜





  【22】



 冒険者の仕事において、一般的に危険な仕事と呼ばれるものは主に三種類に分けられる。一つ目は傭兵としての軍への参加。クリュースが大国としての地位を確立してからはそこまで大規模なものは滅多になくなったが、国境周辺の蛮族との戦闘や、どこぞの領主の反乱鎮圧、大勢力となった盗賊の討伐など、国や領主の募集となるそれは報酬も評価ポイントも破格な上、手柄を立てればボーナス付きと成り上がる一番の近道ではある。とはいえ募集自体も少ないし、傭兵部隊は特に危険な場所に配置されやすいから戦死する可能性はかなり高い。
 二つ目は要人警護。これはまず信用の低い下っ端冒険者が呼ばれる事はないが、なにせ警戒する相手が暗殺者やらの殺人のプロであるし、そもそもそういうのは大抵貴族の勢力争いが原因であるから自身もそれに巻き込まれる可能性がある。報酬もポイントも破格ではあるが、どれだけ腕のいい冒険者でもあっさり死ぬ事があるという厄介極まりない仕事である。
 そして三つ目は当然危険な化け物討伐で、セイネリアのような何の地盤も持たない腕だけの人間が名を上げるのは基本ここからになる。ただこの系の仕事は受ける時点では本当の危険度合は分かり難く、この間のような大規模な数の討伐部隊の募集という場合でもない限り本当に貰える評価ポイントは仕事が終わってから決まるという事が少なくない。つまり、行ってみたら思ったより相手が雑魚で大したポイントが貰えなかったり、思ったより強敵で死ぬこともある、という訳だ。

 ただ、今回は本気で『思ったより雑魚だった』で終わりそうだとセイネリアは思っていた。

「雑魚は任せたっ」

 敵が出た途端、そう言うと嬉々としてつっこんでいった男はいかにも脳みそまで筋肉で出来ているような筋力馬鹿で、余程戦う事が好きなのか今までも敵が出ればまず真っ先に突っ込んでいた。

――本気で不味い相手だったら真っ先に死ぬタイプだろうな。

 思いながらも、セイネリアはおとなしく前の男のおこぼれのような雑魚の相手をする事にする。

「エル、頼む」
「ほいほいっ」

 言えば、後方から青い髪のアッテラ神官の返事が聞こえて、ぽんと軽く背を叩かれる。

「強き神アッテラよ、戦士に力を」

 続く呟きと同時に、セイネリアは剣を握りなおした。
 ぎゅっと手に入る感覚は確かにいつもより軽いのに強い。腕を上げて構えれば剣さえ軽く感じる。ただ、力の入れ具合の調整が違う事で体を動かした時に微妙にズレる感覚があった。力が想定外に出過ぎて、試しに剣を一振りしてみればやはり振った時の反動が違って剣先の位置がずれる。

――これは、使えないな。

 セイネリアはすぐ判断する。そもそもセイネリアは剣にある程度の重さを感じたほう使い易いと思うタイプだ。だから剣を軽く感じる事はあまり嬉しい事ではないというのもある。
 そこで襲い掛かってきた敵を斬り捨て、感覚の違いを再確認する。
 いくら感覚がズレても雑魚に手間取る事は流石にないが、力が入り過ぎて敵だけではなく地面まで叩いてしまって舌うちした。

――まったく、雑魚相手じゃなきゃやってられない。

 自分の無様な動きに自嘲しつつ、セイネリアはまた構えなおす。そうして、次に襲ってきた敵をまた叩き斬る。今回は地面を叩きはしなかったが、それでも振りすぎて次の構えを取るのが遅れた。

 楽な仕事ならそれはそれとして、今回の仕事では戦闘の度、セイネリアはこうしてアッテラの肉体強化術を掛けて貰ってその感覚を確かめていた。術の段階や強化個所を変えたりして使い勝手を探っている状態では雑魚相手は丁度良かった。



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