黒 の 主 〜傭兵団の章三〜





  【15】



 グローディ領キエナシェール、セイネリアが久しぶりに訪れた感想としては、前よりも商人の馬車が増えて賑やかになったというところだろうか。町の中央通りには新しい建物が増えていて人々の往来も増え、明らかに活気も増していた。
 カリンに商人達から話を聞いてきてもらったところ、スザーナへ行く道が整備されたおかげで以前はスザーナの領都パハラダとザウラの領都クバンだけを行き来していた商人達が、ここキエナシェールにも来て3都市を回るようになったらしい。他にも、蛮族側からの薬草や工芸品、珍しい獣の皮などが入ってくるようになって、首都方面からの商人も増えたそうだ。

「上手くやっているようじゃないか」

 通りを歩きながら思わずセイネリアがそういえば、隣にいるカリンも嬉しそうに言ってくる。

「ナスロウ領が出来たおかげで、国境ぎりぎりまで行く商人が増えたそうです。ですからキエナシェールだけではなくクバンも更に賑やかになったいうことでした。ですが一番変わったのはザイネッグで、村だったのが今はナスロウ領の領都になったことで前からすれば完全に別モノになったと言っていました」
「王は結構気前よく金を出してくれたようだな」
「それでも王としては、騎士団支部をつぶしてナスロウ卿に国境守備を投げられると考えれば、長期的に見て損はない、という計算なのですね」

 カリンの言葉はセイネリアにとって満足できるもので、彼女が大分権力者達の思考を読むのに慣れたのがわかる。

「その通りだ。思ったよりも王は頭がいいらしい」

 ただセイネリアのその言葉に、カリンはくすくすと笑いだす。

「それを王宮で言ったら不敬罪に問われます」
「確かにな」

 通りの人の数も明らかに前より多くて、セニエティ並みとまでは言わないが増えているのは商人だけではないとよくわかる。もとから冒険者にとっては手頃な狩場があるからこちら方面へくる隊商が増えれば冒険者も多くやってくるようになり、森や山に冒険者が多く来るようになれば盗賊も減る、という変化が起こるのも予想できる。
 冒険者が増えているせいかセイネリア達がフードを被って歩いていても気にするものはなく、賑わいの中をセイネリア達は歩いていく。
 そうしてグローディの屋敷につけば、門番の兵に話しかけるより前に話しかけられた。

「セイネリア様とカリン様でしょうか?」

 横でカリンがくすりと笑う。

「そうだ」

 セイネリアがフードを取れば、カリンも顔を出した。門番はそこでわずかに硬直したが、すぐに背筋を正して礼をとった。

「すぐご案内いたします、少々お待ちください」

 そう言っている後ろでは他の門番兵が屋敷の方へ走っていて、言われた通りほとんど待つことなく案内役の人間がやってきた。遠目からでもすぐわかる彼女は、背筋を伸ばして堂々とこちらへと向かってくる。

「ようこそセイネリア・クロッセス殿、主からは最上のもてなしをするように言われている」

 そう言って客に対する礼をして見せたのはレンファンだった。セイネリアは少し皮肉げに聞いてみた。

「なんだ、主の護衛で常にそばについていなくてはならないんじゃないのか?」

 そうすれば彼女はぷっと笑って表情を崩した。

「私が来たのはその主からの命令だ。それに屋敷の中ならまず問題はない」
「お久しぶりです」

 カリンが挨拶をすると、レンファンは視線を落として目を細める。

「あぁ、相変わらず、のようだな」
「はい」

 カリンが微笑むと、クーア神官でもあるディエナの護衛役の彼女も微笑む。二人は暫く視線だけで何かを確認するように黙って、それからレンファンはまたセイネリアを見て言った。

「では早く中へ、ナスロウ卿もディエナ様も会えるのを楽しみにして待っていらっしゃる」
「あぁ、分かった」

 最初に会った時は自分の能力にコンプレックスを持っていた彼女の、今の表情には自信があった。やってきた時の堂々とした所作からも、彼女が今ここで充実した日々を過ごし、自分に誇りをもって生きているというのが分かった。




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