黒 の 主 〜傭兵団の章三〜





  【6】



 モーネスの孤児院の存在自体は一度調べてあったというのもあって、現状の確認だけなら調査はほとんど時間が掛からなかったらしく、次の日の昼にはカリンがセイネリアのもとに報告にやってきた。

「全てあの男が言っていた通りです。モーネスは1年前に病死していて、ソレズドは11日前に死体が発見されています。その後、孤児院にガラの悪い連中がよくやってきては嫌がらせをしてくるようになっています。そいつ等は金を返せと言っていたそうですので、ラダーという男が言った話と合います」

 そうだろうな――あの男の話し方からして、勘違いはあり得ても嘘は言っていないとセイネリアも思っていた。というか、モーネスがセイネリアのところへ行けと言ったというなら、ラダーはセイネリアが助ける可能性があるような人物だとも言うことも出来る。話の様子からもモーネスの罪を知らないようだし、あの老人の正しい部分だけを見てきた真っ当な人物なのだろう。セイネリアの噂を知った上で一人でやってきたのだから臆病者でないことも確定していい。

「ラダーは一応冒険者登録はしていますが、他の孤児院出で冒険者になった者のように孤児院を出ていかず、残って院内の力仕事をしながら子供達を守っています」
「確かに場所柄、用心棒役が必要か」
「体が大きいですから、脅しはきくのでしょう。力があるのは確かでしょうし」

 顔付がおだやかであるから強そうには見えないが、確かに体つきは悪くなかった。少なくとも怠けている体ではない。

「冒険者としての仕事は?」
「モーネスが生きていた頃は、先に冒険者になった者の仕事によくついていっていたようですが、モーネスが死んでからは極たまに金のために荷運び等の力仕事を受けている程度です」

 あの真面目そうな性格からすると、モーネスから孤児院を託されたか。行動的にはそう取れる。

「どうやら……彼は金を返せといってきた者達のところへ一人で行って無抵抗で殴られ、どうにか期限まで待ってもらう約束をしてきたようです。ただ相手はガラの悪い連中ですので……孤児院の近くにうろついていたのは追い払っておきました」

 確かに少しづつ返すと言っても聞いてもらえなかったと言っていたから、自力で交渉はしたのだろうと思ってはいた。こちらが思った以上に出来るところまではどうにかしようとしたらしい。……少なくとも、その性根だけは認めてやれる。

「ご苦労だった。奴が嘘をついているとは思っていなかったが、確認は必要だからな。それにただの人頼みの男でない事も分かった」
「はい、少なくとも信用は出来る、使える人間だとは思います」

 カリンがそう返してきたところからすると、流石に彼女はセイネリアがあの男をどうみているか分かっているらしい。そしてどうやら彼女は心情的にあの男を助けてやりたいと思っている。カリンがどこまで自覚しているか分からないが、事実を報告してはいるものの、セイネリアがあの男を気に入るだろう部分を詳しく言い過ぎている。
 とはいえ確かに、セイネリアとしても好ましいと思えるタイプの人間ではあるのは確かだ。

「とりあえず、あの男と孤児院側の事情は分かった。……それで、ソレズドを殺した連中の方についての詳細は?」

 言われてすぐ、彼女は手に持っていた報告書の紙を変える。
 カリンのことであるから当然そちらも調べている筈だった。

「それですが……まず、ソレズド達が3月ほど前に請け負った仕事で、組んでいた冒険者が2名死んでいます。一人はウィット・ファバイリ、もう一人はアグニー・パラ。この2人はもともと組んで仕事をしていて、アグニーが防御、ウィットが攻撃というように得意分野がハッキリ別れているのが特徴でした」
「装備は?」

 ソレズド達が前と同じ手を使って金を入手しようとしたなら、基本は装備狙いの筈だ。

「防御担当のアグニーの鎧は、一冒険者としてはかなり金がかかっていたようです。またウィットはいろいろな武器を集めるのが趣味で仕事にはいつも複数の武器を持って行っていたと言う事です」
「大金を手に入れるところまでは成功したのだから、現地では上手く行ったんだろう。……なら、売り払った時に足がついたか」
「はい。死んだ2人とは同郷の、パーティ登録をしている仲間が調べてそこからソレズド達の事を突き止めたようです」

――やはり、モーネスのジジイがいなかったら失敗したか。

 ソレズド達は計画の実行には慣れていただろうが、ターゲット選びから計画の立案、その後の始末――武具を金にするところまで――の細かい部分は全てモーネスがやっていたのだと思われる。ソレズド達の過去の仕事を調べた時に、彼等の計画の犠牲者となった者達は皆、身内と言える程親密な仲間がいない、もしくはそういう者全員が仕事に参加して死んでいたというのが分かっていた。ソレズドは前のやり方を表面的にマネただけで細かい部分まで気にしていなかったのだろう。




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