黒 の 主 〜傭兵団の章三〜





  【7】



「それでソレズド達に報復して、売った金の行先を調べて孤児院を突きとめたのか」
「どうやらソレズドが拷問されてしゃべったらしいです」
「……最後までクズだったか」
「そうですね」

 同じ孤児院で育ったのに、ラダーという男とソレズドが違い過ぎるのが面白いといえば面白い。モーネスのいい部分だけを見て来たのと悪い部分を見て来た人間の違いなのか、それとも実力がないのに上級冒険者になったせいでソレズドの性格がねじ曲がったのか。どちらにしろモーネスが孤児院を託した者と、犯罪行為に誘った者、適材適所すぎてあのジジイは人を見る目はあったらしいと皮肉に思うところだ。

「……彼の願いをきいてやるのですか?」

 黙っていればカリンが聞いてきたから、セイネリアは彼女に聞き返した。

「お前は、どうすべきだと思う?」
「心情的には願いを聞いてやりたいところですが……無条件に聞いていたらキリがありません」
「あぁ、困った奴がこぞって俺のところに来るような事態はごめんだな」
「だから、代価、なのですね」
「そうだ、普通の覚悟では払えないくらいの代価が必要だと、以後そう言われるようにしておく」

 そこでカリンが僅かに笑った。

「ボスは彼以外にも今後、誰かが助けを求めてきたら助けるおつもりなのですか?」

 セイネリアは少しそこで考えた。確かに会話的にそういう流れになっている。

「そうだな……ただの人頼みの奴は助ける気にならないが、自分でどうにかしようとしてきた奴がどうにも出来なかった時、相応の覚悟で頼みに来たのなら助けてやってもいいとは思ってる」

 どうせ『力』はイラナイ程にある。自分でも使うつもりのない『力』だ。セイネリアが認めるくらいの人間になら、使ってやっても構わない。

「ボスは、結局いつも気に入った人間には彼等にとって一番いい結果になるように助けていますね」
「……俺は人助けをした覚えはないな。仕事を一番いいカタチで終わるようにしてきただけだ」
「そうでしょうか、仕事外の者達にも彼等の望みが叶うように動いて、いつも感謝されているではないですか」
「それは単に、こちらにとってもその方が都合が良かったからだ」

 基本セイネリアは繋がりを作っておいていいと思える人間、セイネリアから見て有能で見込があると思った人間には、彼らが動きやすいように望みが叶うよう動いてやる。それはそうした方が、後々こちらにも益があると考えての事だ。

「そうですね。でも、ボスが今までたくさんの人を助けてきたのは事実です。彼等は皆、ボスに感謝をしていますし、ボスを信頼していると思います」

――そういえば、ケサランも似たような事を言っていたか。

 あれは約束を守るという事に関してだったが。
 セイネリアが自分のためにやった事でも相手は自分を信用する、そのせいでセイネリアの周りにはセイネリアが認めた人間――真っ当な者ばかりがつくと。

「別に……感謝なぞされたい訳じゃない、だが……」

 世の中には気に入らない奴がのさばりすぎていて――だからそういう奴には罰が当たって、気に入った人間、努力して足掻いてどうにかしようとする真っ当な奴が報われるのを見たいという気持ちはセイネリアの中に確かにあった。

「どちらにしろ結局は、俺は俺のために動いてる、それは変わらない」

 ただ発見はあった。
 どうやら自分は、自分が認めた人間、見込があると思った人間に対して、彼等の努力が報われていく様を見たいと思っていたらしい、と。彼等を助けてきたのは、自分の中にその感情があったからでもあったのだと。
 確かに、嫌いな人間を落としてやりたいと思うのなら、逆に好ましいと思う人間には望むようにしてやりたいと、そう……思うのも当たり前だ。

 勿論、彼等が望む環境で、望む状況にいる方が自分にとって都合がいいという計算もある。けれど、それには感情からの判断もあるということだ。考えてみれば好き嫌いというのは感情であるから、それは当然だ。

――そうだな、考えれば昔から俺はいつも、気に入るか気に入らないかで決めてきてたじゃないか。

 それは確実に感情だ、自分は結局感情に従って生きてるじゃないか、と。何故そんな事を今更自覚しているのか、考えればそれが滑稽で、だがほんの少し気分がマシになった気はした。




---------------------------------------------



Back   Next


Menu   Top