黒 の 主 〜傭兵団の章二〜





  【36】



 セイネリア・クロッセス及び彼の仲間達に報復を望む者――その言葉で集められた者達は、何処かで集まって皆で話し合ったり、情報の交換とかをしたりはしていなかった。早い話、一つの組織としてまとまって行動していた訳ではないという事だ。
 声が掛かるのは個人単位ではなくグループ単位、つまり同じ恨みを持つ者同士でまとまっている連中のところに話が来て、以後はそのグループあてにに連絡が入る。連絡方法も、他のグループから情報や指示が流れてきて、それをまた別のグループに伝えると言った具合で首謀者から直接連絡がくる訳ではない。

 更に上からの指示方法も独特で、まずセイネリア周りの情報が伝えられてそれについての襲撃計画が伝えられる。そうしてその計画に参加したいグループは指定の方法でその意思を伝え、実際参加が決まったグループには次の伝達で詳細な計画が伝えられる事になっていた。
 だから実行当日にならないとその計画に参加する他グループの面子は分からない。指定の場所に行けば必要なモノは揃っているから、後は指示通り動くだけとなる。集められた実行メンバー同士は相手の素性を聞かないルールになっているから、一人が捕まったとしても違うグループのメンバーは捕まり難い。組織全体での被害は最小限で済む。
 それはとてもよく出来たシステムで、だからこそあのセイネリア・クロッセスでさえこちらの存在に気づいた後も簡単に組織を潰しに動けなかった。

 だが、それも途中から怪しくなってくる。

 ルールはいつまでも守られるものではなく、何度かグループ間で情報伝達をしていれば、最初は知らない同士だった連中もそれなりに交流を重ねて仲間意識が出てくる。やがて一部のグループ同士でつるみ出し、そうなれば指示の通りに動くだけの現状に不満を持って勝手に動き出したり、ルールを無視し出す。特に思想が過激で暴力的な連中程声が大きく賛同者を積極的に集めようとするようになり、今では一部のグループ同士がつるんで別々に動いているという状態だった。

 しかもその変化は末端の連中だけではなく今まで指示を出していた首謀者グループの中ででも起こっているらしく、それまで指示している者達の名は一切流れてこなかったのに、名乗り入りで情報と計画が流れてくるようになった。
 今回の計画はまさにそれで、ついでに実行日より前に一度面子を集めて話し合いまであった。

「……なぁ、連絡、遅くないか?」

 不安そうな顔が並ぶ中、一人が発言すれば我慢していた連中が口々に声に出す。

「だ、大丈夫だろ。ほら、歩きの連中もいるし、遅れてるだけだろよ」
「女もいるみたいだしよ、我慢できなかった連中がいたんじゃね」
「……女は、奴が連れてこねぇ可能性もあるんじゃ?」
「確かに、要求した全員は……こねぇ、かもなぁ」

 いくつかのグループがつるむ事になったため、彼等はそれぞれの集合場所……いわゆるアジトのような場所に集まるようになった。ここもそんな場所の一つで、ここにいるのは主にセイネリアが上級冒険者になった時に襲って殺された者達の関係者と、黒の剣傭兵団の拠点を作るのを邪魔しに行って殺された者達の関係者だ。

 伝えられた計画に賛同して参加をする、と言っても、そのグループの人間全員で参加する事はあまりなかった。特に今回のように参加しているグループが多いと、その中から代表を2〜4人くらい出す事になる。実行役にならなかった者達は、何かあった時の隠ぺい工作や、救助へ向かったり等のフォローをする事になっていた。

「てか……あの化け物ならよ、1人でもこっち全員を潰せるんじゃねぇか。もし、人質を無視してあいつが普通にやってきたら……」
「だ、だがよ、だからそのためにアルワナ神官様がいるんだろ? どんな屈強な人間でも眠らせればいいって自信満々だったじゃねーか」

 予定通りに事が運んでいるなら、やってきたセイネリア達一行を眠らせて首都に連れ帰り、その報告が各参加グループのアジトに来る筈だった。多少手間取ったり遅れたりした場合でも、もうとっくになにかしらの連絡が来ていないとおかしかった。




---------------------------------------------



Back   Next


Menu   Top