黒 の 主 〜傭兵団の章二〜





  【35】



 呼び出した馬鹿連中の中――アルワナ神官とキオット以外が戦闘不能になったところで、セイネリアは自分の剣を収めた。そうしてアルワナ神官に命令して、地面でのたうち回っている連中を眠らせると一人づつセイネリアの言う通りの質問をさせた。勿論、その対象にはキオットも入る。

 それで分かったのは連中の他のメンバーとアジトの場所、他にも彼等の内部事情とそれから……リオが既に死んでいるという事実だった。

「ど、どういう事だよ? っていうかその情報はどれくらい信用出来ンだ?」

 呆然とした後、エルがこちらに一歩踏み出して言ってくる。状況的に彼も流石に怒鳴る事はなかったが、震えて声に力が入っている。セイネリアは感情のない声で彼に事務的に答えた。

「馬鹿共の仲間にアルワナ神官がいたから、殺さない代わりに他の連中から話を聞き出させた。手紙を寄こした馬鹿騎士と他に4人、連中の中でも内情を知ってた奴全員がそう言っていたからまず間違いない」

 そうすればエルはクソ、と呟いてから下を向いて拳を握りしめる。
 その少し後ろで、クリムゾンは彼らしい抑揚のない声で聞いてきた。

「死因は?」
「自害だ。捕まってすぐにな」

 下を向いていたエルが顔を上げる。
 それとは対称的に、そこでどこまでも無表情だった赤い髪と瞳の男が僅かに笑みを浮かべてから口を開いた。

「優秀ですね」
「そうだな」

 セイネリアはそれだけ言うと、エデンスの方を向いた。

「おい待て、今のはどういう意味だっ」

 その声は勿論エルだ。セイネリアは一応彼の顔を見たが、一言。
「言葉通りだ」

 とだけ言うと、すぐにまた視線をエデンスに戻した。即座にエルがこちらの肩を掴んでくる。

「おいまてっ、今のじゃ話の流れ的に死んだ事を褒めたみたいじゃねぇかよっ」

 セイネリアは振り返ったが、それに言葉を返したのはセイネリアではなくクリムゾンだった。

「その通りだ、主の負担になるくらいなら死ぬ、部下とはそうあるべきだ」
「ンだとっ、ふっざけんなよっ」

 エルはこちらから手を離すと、今度はクリムゾンに向かって行く。そうしてエルが赤い髪の剣士の胸倉を掴んだところで、セイネリアが口を開いた。

「エル、今はそんな話をしてる暇はない。やる事が全て終わってからにしろ」
「そんな事って、てめぇなぁ……」
「ここで騒いでもリオは生き返らない。あいつが死んだなら約束通りやる事がある」
「約束通りって、のは?」

 それにはクリムゾンが即答した。

「報復ですね」
「その通りだ。連中のアジトもメンバーもある程度分かった。ならその情報が有効な内に、徹底的に奴らを潰す。それが、次のリオを出さないための最善の方法でもある」

 エルは黙る。だが顔をまた下に向けると静かに答えた。

「分かったよ」

 きつく握りしめた拳は震えている。彼は情で動く男だから、簡単には割り切れないだろう。今回の件は実際セイネリアとしてもいくつもミスを犯しているから、彼が自分を責めてきても当然だと思っている。ただそれよりも、今は先にやるべき事がある。

「エデンス、二人を連れて先に団に戻ってろ。俺は少しやる事がある。クリムゾン、報復の場合は前に言った通りだ、現場の指揮はお前がやれ」
「はい」

 状況は分かっている、やるべき事も分かっている。終わった事をどうこういっても意味はない。だから今、自分の中に動揺はない。

 だが……なんの感情も湧かない中、うつむくエルの横でその赤い目に恍惚とも言える感情を浮かべて自分を見る男を見て、セイネリアは僅かに苛立ちを感じた。




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