黒 の 主 〜傭兵団の章二〜 【31】 翌日の空は晴れて、おかげで障害物のない場所では見通しが利く状態だった。 それをみこしてでもいたのか、向うの馬鹿が来いと指定していたのは首都の東門から出て街道を暫く行き、畑が途切れたところにある林を出てから林沿いに北へ向かった場所だった。 クリュースの首都セニエティの街は冒険者事務局近くの南門を出れば森が続き、城のある北は森と湖があってその先には険しい山々がある。西門は畑と森で先には海があり、川沿いの道を行けば港町リシェにつくが、東門から出た方面は基本は荒れ地が広がっている。とはいえ、東も街の近くは土地が改良されて畑になっており、それを守るように荒れ地との境目に林があった。 連中はその林を出てから北に向かった場所――おそらくは林さえもが途切れて荒れ地だけになっているあたりで待っていると思われた。 「確かにいるな。流石に連中、苛々してるぞ」 指定の時間より少し遅れてその場に来たのはセイネリアとエデンスだった。二人がいるのは林の中で、勿論連中にはこちらは見えない。向うにクーア神官がいるとは思えないからもしエーリジャがいれば彼でも十分だったところだが、今回はエデンスに頼るのは仕方ない。そのせいで彼には負担を掛けてしまう事になったから、後で特別報酬を出す必要はあるだろう。 「人数は……いかにも力だけで頭のなさそうなならず者って風貌の連中が9人。黒い恰好で顔隠してるのが2人、術者っぽいのは1人いるな、多分マクデータの神官だ。それにあと一人、ちょっといい装備の騎士様っぽいのがいる、そいつは勿論偉そうに馬に乗ってる」 今回リオ達が襲撃を受けた時の事を考えれば、顔を隠してる連中2人はヴィンサンロア信徒の可能性が高い。ヴィンサンロアの術を使う者は影に隠れやすいように黒い恰好をしている者が多いというのもある。マクデータ神官はおそらく、こちらの弓を警戒してだろう。貴族らしい一人は多分、あの頭の悪い手紙を寄こしたキオット・ラグ・カルゾで確定していいと思われた。 「リオを連れてきているか?」 「いや……いないな」 「人間サイズの荷物も見当たらないか?」 「多分、ないな。いかにもな大荷物は見えない。馬も全部で6頭いるが、大きな荷物が括られてたりはない」 となるとやはり、リオは連れて来ていないという事だ。 そもそも馬鹿共がリオの身柄を確保しているかは最初から疑わしくはあった。ここに連れてきていないという事は、リオ自身はもう一つの派閥の連中の元にいる可能性が高い。ただ勿論、馬鹿の中にもまだ頭が使える奴がいて、リオの身柄は別にあってそこと連絡を取っている可能性もある。 「どこかと連絡をしている様子はあるか?」 「んー……言い合いをしてたりはしてるが、伝令に誰か出すような様子はないな。魔法系の何かを使ってるのも……ないかな」 セイネリアはそこで手に持った自分の冒険者支援石を見てみる。何かあれば呼び出し石が使われる筈だから、今のところカリンやエル、クリムゾンの方も特に動きはないのだろう。 だからもう少し様子を見ている事にしたのだが……暫くして、さすがに指定の時間から大きく過ぎてくれば連中も待つのをやめる事にしたらしい。 「動き出したぞ、諦めたかね」 あの手の血の気の多い馬鹿というのは忍耐力がないというのはお約束だ。思った通りそこまで待つ事なく諦めてくれたのは想定内ではある。 「全員か? 残ってる奴は?」 「全員だよ。馬に乗り出した。怒鳴り合って、かなりご立腹のご様子だぜ」 「だろうな」 どうやら本当にあそこにいるのは馬鹿だけらしい。 「出発したぞ」 その声と共に、セイネリアは馬に乗った。馬上からエデンスに手を伸ばせば彼がそれを掴む。持ち上げて後ろに乗せ、彼がこちらに掴まったのを確認してセイネリアも馬を動かした。 「連中はどこに向かってる?」 「首都へ戻るみたいだな。街道を使わず林を迂回するみたいだが」 ならばこちらは林沿いに進み、林が途切れるところで待ち伏せがいいだろう。 「別れて別方向に行きそうな奴がいたら教えてくれ」 「了解」 そうして暫くは予定通り、エデンスに連中を見て貰いながら林の中を進んで行く。だがもう少しで林が切れるというところまで来ると、セイネリアはエデンスに先に首都に帰るよう告げた。 --------------------------------------------- |