黒 の 主 〜傭兵団の章二〜





  【11】



 黒の剣傭兵団の仕事を妨害しようとする連中がいる――前にその話し合いをしてから7日が過ぎた。その間も当然毎日報告の時間は設けていたが、その件については何か新しい事が分かるまで保留としていたため指示を出したりする程の話にはならなかった。
 だがその日は、エルがまず口を開いた。

「さって、ゼル傭兵団から返事が来たぜ。団としてはこちらに敵対する意思はない、とさ」
「当然、そう言ってくるだろうな」

 真意はどちらだとしても、現状でこちらに報復などされたくないから個人のせいにして責任を全てそいつに押し付けるしかない。問題はそのために向うがどう対処するかだ。

「で、こっちで書いた犯人の特徴からすっと、団を辞めたゴーディクト・ネガって奴の可能性が高いとよ。なんかお前が殺した誰かの友人って事でな、例の返り討ちにしてやった件の後、お前に対して報復すべきだって騒いでたんだと。んで少し前に、同じくそう言ってた連中と共に団を辞めたってさ」
「辞めた日も聞いたか?」
「あぁ、向うから書いてきたよ、ちゃんとエデンスが見たって仕事の日より前に辞めてる。それが事実なのも事務局に問い合わせて確認した。いやぁ手紙内容の方はそらもうこっち怒らせたくなくて震えながら書いたって感じでよ、必死に弁明と謝罪が繰り返されてたぜ。おそらく、団で関わってないってのは嘘じゃないと思うがね」

 ゼル傭兵団自体はシロと見て問題ないか――セイネリアはカリンの顔も確認してから、エルに言う。

「そうだな……団として動いてないのはほぼ確定だろう。そういう事なら報復まではしないと返してやれ、ついでにそのゴーディクト・ネガという奴らの事で何か分かり次第教えろとも書いておけ」
「ほいほい。見逃してやる代わりに協力しろ、ってか」
「そういう事だ。あんな連中、わざわざ潰しにいく手間の方が惜しい。多少なりでも役に立ってもらった方がいいだろ」

 エルはそれに、了解、と返してから、今度は困ったような顔をして言い難そうに言ってきた。

「あー……んで次は、神殿通いの経過報告もしとこうかと思うんだけど、よ」
「何か分かったのか?」

 セイネリアが聞き返せば、エルはちょっとバツが悪そうに頭をかいた。

「いやー、分かったって言える程の事はねぇし、カリンに調べて欲しいような情報もないんだけどよ。少しばかり引っかかる事はあったってぇくらいかね」
「言ってみろ」

 エルは周囲を見渡してから軽く咳払いをして表情を引き締めた。ちなみに今日のメンバーはセイネリアの他はカリンとエルだけだ。最小限の面子だから、基本隠したり濁したりする必要はない。

「とりあえずまずは神殿にいる奴に噂を集める方向でいろいろ聞いてみた。んで基本的には何かおかしいって思うような話はなかった。お前の化け物じみた強さとか、貴族連中にも顔がきくとことか、この団に対する評価とかさ、冒険者の間でよく言われてる奴ばっかだ。どれもが恐れ込みの賞賛って感じだな。ただ……ちょっと引っかかるのはそのどれにも最後に『相当の恨みを買ってる』ってのがつくんだよ。ま、そう言われても仕方ないとは思えるからそれ自体は不自然じゃないんだがよ、話しする奴の全員が傭兵団やお前についてあれこれ聞いてきた後、必ずっていっていいほど『それで相当あちこち恨み買ってるんだろ、大変だな』って感じで締めてくれる訳なんだよ、当然の話としてな、そこがちっと不自然だと思わねぇか?」

 確かに、恨まれるような心当たりはいくらでもあるしそれ自体は不自然じゃなくても、わざわざ全員がそれをエルに対して聞いてくるのはおかしい。
 こちらを見てくるエルに、セイネリアは彼の言いたいだろうことを言ってやる。

「まるでウチが『恨まれている』というのを誰かがわざと広めているようにも思える、といいたいのか」
「そーゆー事だ」

 言いながら長棒で床を軽く叩いたエルを見て、セイネリアは一呼吸間を置いてから言葉を続ける。

「ウチが大勢に恨まれているというのを広める意味としては、実際恨みがある人間が同じく恨みを持つ人間を集めるためという可能性がある。恨みは持っていても単独でウチに報復なんて怖くて出来ないような連中に対して、同志は大勢いるから協力すればどうにか出来るのではないか、と思わせられる」
「あぁ……成程ね」

 エルは眉を寄せて腕を組む、彼としてはそういう意図で考えて他に何か思い当るものがないか思い出しているのだろう。

「どちらにしろ、恨みを持つ人間が大勢いるのは確かだからな、そいつらが単独で嫌がらせを行っているように見えて実際は裏で手を組んでいる、という状況が一番しっくりくる。となるとこちらの方針としては、手を組むように連中をまとめている人物、もしくは組織を突き止めて潰すだけだ」
「そらー……そうなるんだろうけどよ、何か手がかりとかあるのか?」





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