黒 の 主 〜傭兵団の章二〜





  【2】



「注意を促すついでに、最近仕事中に似たような問題が起こらなかったか団員達に聞きました。それで『もしかしたら』と言ってきた者が数名いましたので、彼等の話を聞いて怪しい人間をリスト化し、そちらも背後関係を調べました。その結果……」

 カリンが少し言い難そうに話を続ける。

「何か分かったのか?」
「リスト化された人物たちに特に気になるような繋がりは見つかりませんでした。ただ……傾向として、アッテラ信徒が多いようではあります」

 すると黙って聞いていたエルが挙手と共に発言した。

「分かった、そっちは俺が神殿関係者にそれとなく探り入れてみるわ」

 カリンが少し安堵したような顔をする。どうやらエルに対して気を使っていたらしい。エルはもとから顔が広いから、アッテラ神殿繋がりで何かあるなら彼に動いて貰うのが手っ取り早い。ただカリンとしては彼の今の立場的に、彼に直接動いてほしいとも言い難かったのだろう。

「エル、何か分かっても真相を探ろうとまではしなくていいぞ。怪しい噂やひっかかる情報を集めてくるだけでいい。実際調べるのはカリンの方に任せる」
「あぁ……そっか、分かったよ」

 そこで話が一旦切れたから、セイネリアはカリンに次の報告を促す事にした。

「それで、エデンスがいるからには、何か分かった事があると思っていいのか?」

 するとカリンは一歩下がり、代わりにクーア神官が面倒そうに頭を掻きながら前に出てきた。

「あー……昨日終わった、新人研修を兼ねた東の荒れ地の仕事なんだがな、こっちは思いきり邪魔をされたのが確定だったんでその報告だ」

 エデンスのこの団での役目は現状、戦力的に不安がある面子で仕事をさせる時のフォロー役だった。一緒に行動して千里眼で周囲の警戒をする事もあれば、外から様子を見てもらう場合もある。彼が言っているこの間の仕事に関しては、確か実際のパーティとは別行動で護衛にカリンの部下をつけて外から見ていた筈だ。

「お前がいたんだ、向うの目論見未遂で終わったんだろ?」
「そりゃな。で、しっかり犯人の顔も見てきた」

 確かにエデンスなら犯人がどれだけこっそりやったとしても探し出すのは容易だ。彼がいた時に犯人が姿を現したのはある意味こちらにとっては幸運ではある。

「最初からいっかにも胡散臭いのが2人、遠くから追いかけて来てるのが見えてた。だからそいつらを見張ってたんだが、ウチの連中が戦闘に入った途端、近くの木に火をつけてきてな。多分一人はレイペ神官か信徒だったんだろ。あっという間に燃え広がって、それを見たら焦る様子もなく消えたよ」

 冒険者の中で戦士として登録している人間では、レイペ信徒はアッテラ信徒の次に多い。セイネリアも今までレイペ信徒とは何人も仕事をしてきたことがあるし、それだけでは特定するための条件としては弱い。ただし、エデンスの事だからそれだけしか分からなかった筈はない。

「どう対処したんだ?」
「とりあえずターゲットのバケモンの上に岩を落として、そいつがふらふらしてる間にウチの連中を片っ端から安全なとこまで飛ばした」
「それは、ご苦労だったな」
「あぁ、とんでもなくきつかったぞ」

 転送と千里眼持ちのクーア神官の万能さはこういう時に発揮される。戦争ならいるかいないかで戦局が変わるくらいであるから、通常の仕事では想定外が起こっても大抵はどうにかしてくれる。

「で、その火をつけた連中については?」

 いくら味方を逃がすのに必死だったとは言っても、彼がしっかり犯人を見ていたのは疑いない。

「あぁ、正体は分かったんでそのまま逃がした」
「どこの手のものだった?」
「傭兵団の紋章が見えたから首都帰ってから調べたら……ゼル傭兵団だ」
「成程」

 正直なところ、そいつらに関しては心当たりがあって理由もすぐにわかる――が、一言で言えばつまらない相手過ぎて気が抜けもした。

「心当たりは?」

 聞いてきたのはエデンスだ。セイネリアはつまらなそうに椅子の背もたれに寄り掛かった。

「あるぞ。……この団の建物を建設中に、そこの連中が嫌がらせにきたからクリムゾンが一人殺した。その後報復に人数を引き連れてきたから俺が派手に返り討ちにしてやった。かなりの惨状を見せつけたからな、再報復はまずないと思ったんだが……」
「お前さんが派手にっていったら……普通はもう手を出してこないだろうな」

 だからこそ、おかしくはある。
 あの後あれが原因でゼル傭兵団は落ちぶれたし、こちらに相当の恨みがあるのは確かだろう。だが惨状を見せつけた上で、次に何かすれば団に出向いて全員始末してやるといったのだ、命が少しでも惜しければまず二度とこちらに何かしようなんて思わない筈だった。




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