黒 の 主 〜傭兵団の章二〜





  【1】



 セイネリアが傭兵団を立ち上げてから1年が過ぎた。
 長であるセイネリアの規格外の強さが有名なのは勿論、傭兵団自体の方も少なくともその名を出しただけで一目置かれるくらいにはなった。実際セイネリアが認めた者だけしか入れないだけあって団員達の腕の方は保証されていたし、長であるセイネリアに逆らう事は何より恐ろしいから規律の方もしっかりしていて信用も高い。同じ仕事でも黒の剣傭兵団の人間なら報酬設定が高くなっても文句が出ない程度には周囲には認められいた。
 勿論、一般的な仕事ではなく貴族のように地位や財ある者達の間では扱いは更に別格で、貴族間の争いや問題ごとの解決も黒の剣傭兵団を雇えさえすれば勝ちだとまで噂される程だった。ただし、そういう仕事を頼むのならセイネリアを納得させられるだけの条件が必要で、彼傘下の情報屋がいるから誤魔化しや嘘をついて頼めばまず断られる、それどころかそんな事をすれば手痛い報復を受ける……と言われていたから、ただの馬鹿貴族が考えなしに仕事を依頼してくる事はまずなく、客のレベルも基本高かった。他の傭兵団から一目置かれているのはその実力だけではなく、セイネリアが持っている貴族達への繋がりに対してというのも大きかった。

 そうして、地盤が固まって得意客がつけば団の運営は安定する。特に上流階層の人間からの依頼が多いのもあって、黙っていても金はいくらでも入ってくる。金があれば団内の設備を整えて、情報屋の方でも新しい情報源を確保して情報網を広げられる。あとは働きの良い者には賞与を出してやり、それ以外の者にも定期的に宴会や装備の支給等でいい目をみさせてやればモチベーションが上がって、自然と団も情報屋も組織としてのレベルは更にあがっていく。
 ここまでくれば、後は作った制度をただ回していくだけで財も評価も上がっていくだけだ。

――まったく、馬鹿馬鹿しくもつまらない。

 そうなるようにしむけたのに、上手くいったその事が気に入らないのだからセイネリア自身、馬鹿みたいだと呆れはする。
 やると決めて自分で作ったからには手を抜かないし投げる気はないが、上手くいっても面白くもないし、安定期に入ってしまえばつまらなすぎて興味さえなくなる。プライドから投げはしなくても、最近では団の名を背負って仕事をするのにムカつくくらいだから本気で馬鹿馬鹿しい。
 それでも、何もやる気がないからといって怠惰に過ごす自分は許せない。何もせずにムカついているより、何かやっていてムカついている方がまだマシだった。動いていれば何かが起こるかもしれない、何か変化があるかもしれない……その可能性がゼロでないだけ、気休め程度にはなる。

 だがそんなセイネリアの元へその日、少しばかりの変化を告げる報告が入ってきた。

「最近、うちの団での仕事が妨害されています」

 セイネリア自身に仕事が入っていない時は、夕食前に団の幹部で集まって彼等の報告を聞くのが日課となっていた。幹部と言っても固定はカリンとエルくらいで、状況によってはクリムゾンや、大き目の仕事終わって帰ってきた場合そのパーティリーダー役が呼ばれるくらいだ。
 その日セイネリアの部屋にいたのはカリンとエルとエデンスだった。報告自体はカリンからだが、現場の話をする役としてエデンスを連れてきたという事だ。

「最初に報告があったのは、5日前にあったグノラス山の捜索です。こちらから出した3人が、途中で他パーティにわざと敵をけしかけられたかもしれないと言ってきました。その時は被害もありませんでしたし、確定ではなかったので可能性としての報告だけにしていました」
「一応そのパーティ連中の背後関係を調べておく、という事になった筈だな」
「はい、その調査書はこちらです。また以後、仕事に出る者には注意を呼びかけています。それと指示通り、危険を感じた場合は仕事の中断を許すともいってあります」
「あぁ、現状はそれでいい」

 この手の事態が起こるのは想定内ではある。
 なにせ新設の傭兵団が名を上げれば、他所からの妬みや恨みは買って当たり前だ。ただしセイネリアの恐ろしさも十分知られているからヘタなところが手を出してくる事はない筈ではある。多少の嫌がらせや無視程度はまだしも、堂々とこちらに危害を加えようとしてくる者がいるとすれば余程自分達の勢力か上だと自信があるか、もしくは余程の馬鹿くらいだ。……あとは、余程セイネリア自身かこの傭兵団に恨みがあるか。

――どれでも思い当る事はいくらでもあるな。

 ともかく、セイネリアとしても厳選して集めた駒を減らす気はないし、自分の下にいるからには彼等を守る義務があった。





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