黒 の 主 〜真実の章〜





  【27】



「なんだお前は……もしかして俺らを一人で相手しようってのかぁ?」

 連中の一人がそう言ってきたが、明らかに声が震えて怯えているのが分かる上、いかにも頭が悪そうな顔だったから言い返すのも馬鹿馬鹿しくて無視した。
 とはいえ。

「おい誰だっ、てめぇっ」

 そう聞いてきた別の男には返事をしてやる事にする。なにせ彼等にはこちらの名前を恐れて広めて貰うという役目もある、ならば名乗ってやらなくてはならないだろう。

「ここに作る予定の傭兵団の長、セイネリア・クロッセスだ」

 ざわめきが一瞬、途切れた。続いて連中が全体的に一、二歩引いた。不安そうに仲間を見る者、体が引けている者等反応は様々だが、それでもまだやる気がありそうな連中は結構多い……そうでなくては、とセイネリアは兜の下で目を細めた。

「はったりだ、恰好だけだろっ」
「そうだ、見た目だけだっ」

 だがただの雑魚も多い。その言葉だけで、こちらの見た目に怯えているというのが分かるし、仲間をちらと見ては自分を安心させている辺りがいかにも人数頼りの小物だなとセイネリアは思う。

「なんだ、俺の名前を知らないのか?」

 そう言えば、その手の連中は口を閉じる。明らかに腰が引けているのを見れば虚勢をはっていただけだろう。
 ただ、中途半端に自分が強いと思ってる奴は自信がある故に思考能力がなくなるらしい。

「はん、いくら自信があってもこの人数相手にどうするってんだっ。いっとくが俺らはゼル傭兵団だ、そのへんの雑魚連中とは違うんだぜ? おとなしく謝りでもしたいっていうなら……」

 あまりにも馬鹿過ぎる言葉にはさすがにそれ以上聞く気がなくなった。尚も偉そうに囀る馬鹿の声をさえぎってセイネリアが言う。

「さっさとこい」
「は?」
「仲間の報復に来たんだろ、ならさっさと来い。お前の汚い声は聞くに堪えない」

 馬鹿は顔を真っ赤にして叫んだ。

「貴様っ」

 それを合図としたかのように、馬鹿が傍にいた者達と一緒に突っ込んでくる。人数は5人、一応踏み込みからして動きが悪くないのは確かだ。ただ同時に突っ込んできた彼等だが、セイネリアには見ただけでその攻撃がこちらに届く順番が瞬時に分かっていた。
 だから一番最初に到達する男の方へ踏み込み、向こうが伸ばした剣の下を突いてその腹を貫く。それを蹴り飛ばして剣から抜けば、その後ろから来ていた男にぶつかって一緒に後ろへ倒れる。
 次に来る剣は後ろから、セイネリアは振り向きざまに剣を切り返して下から上へと振り上げた、それで男の右腕が吹っ飛ぶ。そのまま男の後ろへ回り込めば、丁度剣で突いてきた別の男の剣が右腕を失った男の腹に深々と突き刺さった。

「なっ、なんでっ」

 自分が刺した仲間を慌てて受け止めようと男が焦る。こいつは先ほど汚い声で囀ってた馬鹿本人だ。だがその驚愕にひきつった顔は次の瞬間喉を切られ、白目を剥いて絶命した。当然これには血が派手に吹きあがって、一番遅れてやってきた男はそれを見て足を止めた。
 その横をセイネリアが通り過ぎる。と、同時に悲鳴があがって男の右手が飛んでいく。狂ったような声を上げてその男も地面に転がった。
 それはおそらく、見ているものからしたら二、三呼吸の間程度。それだけの時間でセイネリアの傍に立つ者はいなくなった。

「う、うあぁ、や、あがぁあっ」

 そこで最初の死体に乗っかられて倒れただけの男が完全にパニックを起こして地面で藻掻き出した。だが焦るせいで死体をどかせず、男はなかなか立ち上がれない。セイネリアは殊更ゆっくり男の方へ歩いていく。そうして大きく開いた男の口の中へ剣を落とせば、ゴミ虫のように暴れていたソレは動かなくなった。

「さて……」

 セイネリアは血に少し重くなったマントをうっとおし気に払うと他の連中を見る。残りは20人まではいないといったところか、皆動けずに固まっているようだ。

「さっさと来い。勿論、殺す気でな」

 全身を黒い甲冑で身を包み、黒いマントで両腕までを覆った騎士が、男達を挑発するように剣から片手を離すと怠そうに手招きをした。

「死にたくないなら俺を殺すしかないぞ」

 言って剣を振って血を飛ばすと、連中の前の方にいた一人が叫んだ。

「ぜ、全員でっかかれっ、奴を殺せっ」




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