黒 の 主 〜真実の章〜 【16】 いくつかの争いを経た後、魔法が消えた新しい世界で、とうとう騎士の敬愛する王はこの大陸を統べる最も偉大な王となった。 完全にこの大陸を統一し、逆らう国がなくなって暫くは平穏な日々が続いた。 力を持つ王達はすべて処分したし、生き残った他の権力者たちは剣の力を恐れて逆らう事はなかった。それでも勿論潰した国の残党が問題を起こす事もありはしたが、かつて魔法に頼っていたクセに魔法が使えなくなった連中など大した脅威ではなく、騎士が指揮する兵達によって簡単に鎮圧されていた。 魔法がなくなった世界では新しい秩序が生まれていた。いわゆる平民以下は魔法がない生活をするのが普通で、一部の特権階級の者だけがギネルセラの作る魔法アイテムによって前ほどではなくてもある程度魔法が使える生活をしていた。 騎士は勿論その特権階級の人間ではあったが、相変わらず魔法のない生活をしていた。戦闘が必要な事態は減ったが鍛錬は欠かさなかったし、新しい秩序の元での兵達の訓練も進めていた。実践で剣技を見せる機会は減ったが、その分競技会などでその力を見せ、相変わらず最強の名をほしいままにしていた。 強さを見せる事は自分の存在意義ではあったが、それでもこの平和な世に騎士は満足し、日々の生活に充実感を感じていた。 ギネルセラは潰すべき敵がいなくなったのもあって、主(おも)に物に魔法を込めて魔法アイテムを作るのが仕事となった。彼が魔法アイテムを作って特権階級の連中に配ってやることは彼等を大人しく従わせるための策でもあった。王に指示されるまま、ギネルセラは魔法アイテム作りで日々を過ごしていた。そんな彼に、世界が変わる前とやる事は同じではないかと騎士は言った事があったが、それに彼は嬉しそうにこう言ってきた。 『確かにそうかもしれない。だが立場は全く違う。かつての俺はそれしか出来ない役立たずと見下されていたが、今は逆だ。皆魔法道具が欲しいから俺に頭を下げる、偉そうにしていた誰もが俺にだけは大魔法使い様と媚びを売ってくる、まったく笑えるじゃないか』 誰もが魔法を使えなくなった世界で、それでも魔法が使える人間、つまり自分に魔力がある人間はギネルセラの他にもいた。勿論そのどれもがギネルセラと比べればお粗末すぎる能力しかなかったが、そういう者達は魔法使いと呼ばれ、優遇されていたのもあって殆どの者は国に仕えていた。そして彼等の中でも圧倒的に魔力があるギネルセラだけは特別視をされ、大魔法使いという称号で呼ばれるようになった。あの黒い剣の魔力を扱えるのは彼だけであり、彼だけが魔法を使える道具をつくる事が出来たから、多くの者から彼は恐れ、敬われていた。 ギネルセラとしてはそれで満足だったらしい。 あの黒い剣を作り上げはしたもののギネルセラの目的はその剣を使う事でなかったようで、彼があの剣を使って直接大群を葬り去ったのはたった一度だけだった。以後は剣を人前に出してくることもなく、魔法道具を作るのに剣から魔力を貰う程度の用途にしか使っていないという事だった。 国を脅かす外敵はなく、人々は新しい秩序に慣れていき、国は繁栄し平和な世となった。 ただ、騎士の愛する偉大なる王はその地位についてから少しづつおかしくなっていった。それは考えればギネルセラが大魔法使いと呼ばれて貴族達から持てはやされるようになった辺りからだったかもしれない。 王は、やけにギネルセラの行動を気にするようになった。 騎士はあの魔法使いと割合仲が良かったから、彼の様子や彼と話した内容を王に詳細に報告し、王が妙な疑いを彼に向けないように努めた。 自分を裏切る気配がないかと聞かれてもそれを否定し、もしそんな素振りがあれば自分が魔法を使われるより前にあの男を斬り捨てると言って王を安心させていた。ギネルセラも日ごろから、どんな魔力を持っていても戦えば騎士には敵わないとそう言っていたからそれで済んでいた話だったのだ。 そう、騎士が病に倒れるまでは。 --------------------------------------------- |