黒 の 主 〜真実の章〜





  【10】



「俺としては今後装備を揃えるなら全部あんたに任せたい。それに俺の下に付く連中についても、腕のいい連中にはあんたの装備を使わせたい。となると毎回ここまで来るのは面倒だ。勿論、あんたが首都で店を持つなら出来るだけの援助はする、とりあえず店自体はこちらで用意しよう。さすがに中央通りの一等地というのは無理だが、出来るだけあんたの希望に添える場所を確保出来るようにはする」

 思った通り、ケンナは腕を組んで顔を顰めた。そのまま悩んでいるらしく暫く無言になる。ただ暫く悩んだ後、彼はちらと後ろで黙っていたクリムゾンを見てから聞いてくる。

「そっちのお前、なかなか面白ェ得物もってンな。ちぃっと見せてくれねぇか?」

 その言葉でクリムゾンが警戒したのが分かったが、セイネリアが彼に視線をやると彼は黙って両腰にあった大型のナイフを片方だけ抜き、鍛冶屋に渡した。ケンナは目を輝かせてそれを受け取ると、角度を変えながらじっくりそれを観察する。

「面白ェつくりだな、見た事がないカタチだ。だが使いこんでるし手入れもしっかりしてる」

 樹海の仕事では剣とナイフを使っていたクリムゾンだが、実はかなり器用な男で武器は仕事に合わせていろいろ使うらしい。ワラントの館にくるときに持っているものを一通り見せてもらったが、セイネリアでさえ見た事がない武器もあってなかなか面白かった。この男の性格上、ただのコレクションではなくてどれもきちんと使っているものだというのはその使い込みあとを見ればすぐにわかった。
 今日の彼は腰の左右に湾曲した大型のナイフを持っていて、確かに珍しいカタチでこれは投げると戻ってくるそうだ。あとは背に樹海の時と同じ両手と片手の両用剣も掛けているが、そっちは一般的な冒険者がよく持つもので別段珍しいものでもない。そのせいかケンナはちらと背から見える柄を見ただけで、それも貸してくれとは言わなかった。

「ありがとうな」

 じっくりいろいろ見ては呟いてから、ケンナはナイフをクリムゾンに返し、そのまますぐにセイネリアの顔を見る。

「こいつもお前の下についてンのか?」
「あぁそうだ」

 言えばケンナはにっと口角を上げた。

「……ってこたぁ、お前が俺に装備を作らせようって思うような連中は、こいつくらいの腕はあると思っていいのかね?」

 意図が分かったセイネリアも笑みを返す。

「そうだな。少なくともこいつとまともに打ち合える程度の腕はあると思っていいぞ」

 するとケンナは満足そうにふん、と息を吐いて言った。

「ま、面白ぇ仕事が出来るンなら乗ってやっても構わねぇ。それに実を言うと最近首都からの客も増えてな、丁度いいっちゃ丁度いい」
「なら決まりだ」

 セイネリアが即返せば、ケンナは人の悪そうな笑みを浮かべてから言ってくる。

「店の場所は表通り近くなんて誰でも来れるような場所にはいらねぇ。首都にゃ西の下区ってぇ治安の悪いとこがあんだろ? そういう弱い奴ならビビって来れないような場所がいいねぇ」

 ケンナの事だから目立つ良い場所へ店が欲しいとは言わないと思ったが、さすがにそれはセイネリアとしても即了承は出来なかった。

「あんたらしい希望だが、さすがに一人じゃ西の下区は危険過ぎる」
「あんま俺をなめんなよ、ケチなチンピラくらいどうにでもなる」

 確かにケンナの体付きからすれば雑魚なら相手にならないだろうが……まぁ、へたに反対し過ぎると拗れるので適度に妥協点を考える事にした。

「分かってるさ。西の下区にするかはおいておいて、腕に自信がないような奴ならこれないような場所で、そこまで問題が起こりやすくない、もしくはこっちがすぐに行けるところで探しておく」

 更には建物もかなりがっちりしたのを用意しないとならないなと思いつつ、とりあえずそれでケンナは納得してくれたらしい。本音を言えば傭兵団の拠点が出来たらそちらに招いてお抱えの鍛冶屋になってもらいたいくらいだが、ケンナの性格上それだと話が纏まらないのは分かっている。
 ともかくこれで今回のこの街での仕事は終わったと、一息ついてからセイネリアは鏡に映る自分を改めて見た。

 黒い甲冑に全身を包んだその姿は確かに不気味で、我ながらいかにも化け物らしいと思える。示し合わせた筈もないのにこの姿にあの黒い剣は似合い過ぎると考えれば……まるで最初からすべてがそうなるように決まっていた気がして腹になんともいえない不快感が溜まった。




---------------------------------------------



Back   Next


Menu   Top