黒 の 主 〜運命の章〜





  【71】



 魔法ギルド側が張った結界の中には、セイネリアと魔法ギルドの代表だという男と、その部下として2人の魔法使いがいた。

「これは何の結界だ?」
「外に音が漏れません」
「俺の声も?」
「はい、貴方自身に働きかける魔法は効きませんが、これはただこの中の『音』に効果があるだけなので」

 そう考えれば確かに納得できる。現状剣の力を持っているセイネリアに魔法は効かない。ただし、直接セイネリアに掛ける魔法でなければ効果はあるという事だ。

「どんな魔法使いのどんな術でも、貴方が受ける気がなければ効果はありません。どれだけ強固な結界でもまったく通じないのは貴方も知っている通りだと思いますが」

 その言葉でセイネリアは一応聞いておきたかった事を聞くことにした。

「そういえばメルーの作ったあの結界だがな、もしあんた達に解除を頼んでいたらどうなった?」
「そうですね……なんの情報もなしに我々が解除しようとした場合数十日以上掛かるのではないでしょうか。あの女を捕まえて解除させる前提でもすぐにとはならず2日程は掛かるかと。我々が見たのは結界の残骸だけですが、弟子からの証言からすればとんでもない規模の結界のようでしたから」
「ならメルーが作ったような、別空間を使って外に出る方法は?」
「あぁ、そちらの方が早いでしょう。あの女に作らせればすぐですね」

 だがセイネリアとしては、メルー自体を信用出来ないのだから彼女に人が入る空間を作らせるのは論外だった。

「あの女じゃなく、他の魔法使いに頼めないのか?」

 だからそう聞いてみたのだが、魔法使いは困ったように首を振るだけだった。

「残念ながらあの女と同じ術を使う者がいません。一番近いのは弟子の娘ですが……外からも開けられるものをつくるとなると、こちらで結界の解除を試みた方が早いのではないかと思います」
「そうか」

――なら、無理矢理壊しただけの意味はあるか。

 壊さなかったらエル達は数日単位であそこに閉じ込められる事になっていた。
 ということは、もしセイネリアもあの結界から出られずメルーが魔法ギルドに捕まらなかったらこちらは飢え死ぬしかなく、あの女の計画通りにはなったのか。……勿論、実際セイネリアが自由に行き来出来た時点で意味のない仮定だが。
 ともかく、こちらはただ聞いてみた程度だからそれ以上無駄な仮定話を続ける必要はない、セイネリアは次の疑問を口にする。

「それで、さっきのあんたの言い方だと、俺が受ける気があれば魔法も効くと思っていいのか?」

 先程この男は魔法に関して、こちらが受ける気がなければ効果はない、と言った。つまり逆を言えばそう考えられる。

「はい、貴方が受け入れたものなら効く筈です」

 簡単に断言したからにはそれは信用していいのかもしれない。魔法が基本効かない事自体はいいが、この魔法が日常にあるクリュースではまったく効かないというのも困る。

「俺が受けようと思えばいいのか?」
「そうですね、術者から流れてくる魔力の流れを貴方が意識して引き入れれば効果がちゃんと出る筈です」

 感覚としてはアリエラに力を流した時と同じようにやれば良さそうではある。だがそれならそれで『どんな魔法でも』とはならないだろうと予想がつく。

「なら誰が掛けたか分からないような設置系の魔法は無理か」
「そういう事になります」

 そこは仕方ない。あとは一度誰かに術を掛けて貰って試してみる必要があるだろう。手っ取り早くエルに強化を掛けてもらってみるかとセイネリアは思った。

 魔槍の時と同様、この剣をどう使えばいいか、何が出来るかという答えは剣と繋がった段階で既にセイネリアの頭の中にある。だから考えればその答えは出てくるのだが……どうやら剣の意思でわざと隠されている情報があるようで、セイネリアは剣の効果についてまだ不明な部分があった。帰ったらいろいろと試してみるしかないだろう。





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