黒 の 主 〜運命の章〜





  【62】



 朝になって暖炉の部屋に皆が集まると、まずサーフェスが口を開いた。

「で、これがどういう状況か教えてくれるかな?」

 セイネリアは皆の顔を一通り見てみた。アリエラはまだ寝ているから彼女の話はあととして、昨日あの場にいなかったのはサーフェスとラスハルカで彼らには説明しなくてはならない。クリムゾンはどうやら隠れて見ていたようだからほぼ状況を把握している筈だ。

「メルーの奴が現れて、この家の周囲に結界を張って俺達を閉じ込めてくれた」

 それにサーフェスとラスハルカは驚いた様子を見せなかった。この二人なら気付いたろうなと思っていたのは確定だ、これで話はしやすくなる。

「見たよ、まぁ大したものを作ってくれたものだね」
「ただ、俺は出られる」

 それに少しだけ黙ったものの、サーフェスはやはり驚かずに返してきた。

「ふーん、あの剣のせいなのかな?」
「そういうことだ。で、ここを抜けるための方法について話したい」

 とりあえずほぼ状況は掴めていると思われたから、セイネリアは昨日のやりとりの詳細は省いてここから出るための話だけをすることにした。今朝試したところでは例の倉庫は既に開けられなくなっていたから他に選択のしようもなく、話はスムーズに進んだ。

 基本的にはアリエラが作った空間に皆が退避した後、セイネリアが結界を吹き飛ばすという事で同意はとれたが、サーフェスの方から追加の情報も手に入った。彼が起きてすぐ外へ行ったのは知っていたが、どうやら彼はその時に木の根を使って地中の方も調べてくれたらしい。結果として地中から逃げるのも無理だという事が分かったから、こちらの案にあっさり同意してくれた。
 ただし、アリエラの作る空間が失敗したり出来ても不安が残る場合は、セイネリアが一人で樹海を抜けて魔法ギルドに助けを求める事とする。セイネリアとしては自分の命だけなら分の悪い賭けでも問題ないが、さすがにもっと安全な案もある状況で命に関わる賭けを他人に押し付ける気はなかった。

 ただそれで決まれば、あとはアリエラにかかっている。
 責任重大な彼女は起きるとすぐに行動を開始した。

「朝飯はいらないのか?」
「少しだけ食べたわよ、夜に食べたばかりだしそれで十分。それに満腹だと頭が回らなくなるのよ、知らない?」
「そうか、お前がいいと思うようにしろ」

 アリエラはひたすら地面に魔法陣を描いていた。セイネリアは魔法の進行確認と彼女の護衛も兼ねて傍についていた。他の連中は荷物をまとめたり何か持って行くものがないか家の中を物色中だ。なにせ結界を吹き飛ばすならこの家ごとになる。どうせ壊すのだから少しでも使えそうなものは遠慮なく持って行ってもいいだろう。

「入り口を少しでも開けておければ閉めなくてもいいから楽なんだけど……それは危険、よね?」

 魔法陣がかなり完成近くなったところで、アリエラが一度顔を上げて聞いてきた。

「あぁ、開いていればどうなるかわからないな」

 実際、セイネリアの方も思った通りうまく出来るかは怪しい部分が多い。なにせこの剣を使う時、セイネリアは剣にどうしたいかを願ってはいけないのだ。ただ願わなくてもこの剣に方向性を指示して振ればそれだけで魔力が放出される事は分かっている。文字通り『力加減』だけでこの剣を使わねばならない。この剣が『より強い魔力』でメルーが作った空間の壁を吹き飛ばす事が出来ると分かってはいるが、それだけの魔力をぶつけるからにはアリエラの作る空間は完全に現在の空間と接触が切れていなくては危険だ。
 もし皆がアリエラの空間に入ったあと少しでもその魔法の気配が見えていたら、魔法ギルドに助けを呼びに行く方針に切り替えるつもりだった。

 それでも暫く見ていればやっと魔法陣が完成したのか、彼女は立ち上がる。その頃には準備が終わった連中も外に出て待っていて、ただ邪魔をしないように黙ってこちらを見ていた。
 アリエラは不安そうにその面々を見て、それからセイネリアの方を向くと、まずは少し拗ねたように言ってきた。

「貴方が魔法使いだったら、別の方法があったかもしれないんだけど」

 セイネリアがそれで彼女を見れば、魔法使い見習いの少女は今度は顔を顰めて、少し嫌味を込めて言ってくる。

「だって、その剣を抜かなくても、貴方は魔法を無効化出来るんでしょ? なら、貴方自身には剣の魔力が流れているのよ。だから、貴方自身が魔法の使い方をちゃんとわかってれば、その剣の魔力は使えるんじゃないかしら」




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