黒 の 主 〜運命の章〜





  【51】



 エル達と合流した後、セイネリアはここからサーフェスがいた部屋に戻ると告げ、とりあえずそれに他の連中は従った。
 ラスハルカは生きていたが気を失っていていたためセイネリアが背負って連れていくことにした。単純な余力的にセイネリアが運ぶべきというのもあるが、ラスハルカが意識を取り戻した後にまた暴れ出してもセイネリアなら対処できるからというのもある。
 ウラハッドの死体はそのまま放置した。場所が場所だけにどうせ街まで持って帰れなど出来ないし、わざわざ埋めるためだけに瓦礫から引きずり出して持って歩くほどの余裕はない。どうせ冒険者となった段階でまともに弔って貰えるような死に方が出来ない事など了承済みも同じだ。

 サーフェスがいた部屋に戻れば、一同は思わず声を上げる事になる。

「これは、お前の魔法か?」

 部屋に入る前に明かりが見えていたから何か起こっていたのは分かったが、見て最初にセイネリアでさえそう声に出した。

「そ、僕は植物操作系統の魔法使いだからね」

 それは知っていたが、と思いつつも、規模的に苦笑するしかない。
 パッと見でいえば一本の巨木。その正体は一本が人間の体以上に太い蔓が幾重にも絡み合って一本の木となり高く上へと伸びていたものだった。しかもそれは、伸びすぎて城自体の天井を突き破る程で、明るかったのは空からの光だ。

「言ったでしょ、植物の成長を魔法で操作してね、こうやって急激に、ここまで大きく成長させることも出来る訳。まぁ、成長させる為の養分は必要だからね、根の方を相当広げなくちゃならなくなって時間掛かったんだけどさ。……さ、さっさと登ってくれるかな、いつまでもこんなとこいたくないでしょ?」

 確かに植物を成長させられるというのは分かっていたが、ここまでのものが出来るとは思わなかった。魔法使い見習いという事ではあるが、思った以上に彼は能力が高いらしいとセイネリアも思う。

「そういやあんた、医者って言ってたけど……」

 呆けたようにその木を見ながらエルが呟けば、サーフェスはちょっと得意そうに腰に手をあてて胸を張った。

「まぁね。っていうか、本当はそっちが本業だったんだけどね」

 ここまで見習いとはいえない程の力があって、医者が本業だというのなら当然考えられる事がある。
 植物系魔法使いの多くが医者をしているその理由、見習いという段階でそこまで出来るとはセイネリアも思っていなかったが……同じことを思ったらしいエルが、呆けた顔をしたまま彼に聞いた。

「じゃぁあんた……植物擬肢が作れるのか?」
「出来るよ、医者が本業だっていったじゃないか」

 サーフェスはあっさりと答えた。植物擬肢というのは植物を材料として足や手など失われた人間の体を再現する技術の事を言う。一回作れば一生というものではないから維持に金はかかるが、ほぼ元の体と同じように使えるらしい。
 植物系魔法使いが医者をするのは、薬草の知識は勿論だが、植物擬肢を作るために人間の体の構造を知っているからでもある。

「一応そのつもりもあって今回雇われたんだけどね。誰か怪我したり、最悪足吹っ飛ばして歩けなくなっても、足手まといにはならないくらいにはするつもりでさ」

 彼にそこまでの能力があるなら、上級冒険者であるというのも当然だと思える。魔法使いでマトモに仕事をする冒険者は希少だからそれだけでもいい仕事に呼ばれてポイントを稼ぎやすいが、植物擬肢を作れるなら貴族が一定期間契約して雇う事もあるだろう。
 エルが驚いているところを見ると、付き合いはそれなりにあっても知らなかったようだ。

 ただ驚いている他の連中を前にして、サーフェスは少し不機嫌そうに苛立った声を上げた。

「で、いつまでここでおしゃべりを続ける気なのかな? さっさとあがらない?」
「……あ、あぁ」

 言われて気圧されるようにエルは木の方へ向かったが、すぐに彼は足を止めた。

「おい、じょーちゃんがまだいないだろ」

 なんだ気付いたのか、と思いつつ、セイネリアはエルの肩を叩いて木へと向かう。

「あの娘なら、多分、大丈夫だろ」

 それでもまだ納得いかないという顔で立っているエルを置いて、サーフェスもさっさと木の方行く。クリムゾンは既に登り始めていた。

「そうだね、少なくともこの周りに存在を感じないから、いないか死んでるでしょ」

 どうやら彼も魔力が見えるらしい。どういう基準で魔法使いと見習いが分けられるのかは知らないが、彼の能力は見習いが取れても問題ないように思えた。

「……本当に大丈夫なのか?」

 エルはまだ心配そうに聞いてきたから、セイネリアが返しておく。

「あぁ、死んでるかいないかのどっちかだ。探しても無駄だろ」

 それで流石に割り切ったのか、エルも登りだした。
 そこからまたサーフェスが術を使って蔓を更に伸ばし、こちらはほぼ掴まっているだけで上へと登る事が出来た。




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