黒 の 主 〜運命の章〜





  【42】



「とにかく、ここの惨状はその剣のせいって事かね」
「だろうな」

 どう考えても魔法使いの秘密にあたるだろうからセイネリアとしても実際の事情を説明する気はないが、この白骨の山がこの剣のせいであることは間違いない。

「よくは分からねぇが、お前がソレ持って収まったなら問題なしだが……って、お♪」

 ほっとしたように背伸びをしてから、エルがしゃがんだ。

「おぉっ、いいもんがあるじゃねぇか。……っと、よく見りゃ結構あちこちに」

 エルが見付けたのは腕輪のようだ。確かに白骨死体の山は、よくみればソレらが生前身に着けていたらしい装飾品も紛れていて、エルは上機嫌でそれらを拾っていた。見れば他の連中も骨山を掘っては宝探しをやっていて、セイネリアは呆れながらも笑って呟いた。

「さっきまではあれだけ気味悪がってたのに、随分ゲンキンだな」
「るっせ、慣れたよもう。それに一番ヤバイのはお前が解決した訳だしな」

 そうエルが怒鳴れば他の連中もこぞって言ってくる。

「確かに……あれだけの目に合ったらもう骨くらいは慣れたというか」
「それはあるわね、見過ぎてどうでもよくなっちゃったわ」

 気の弱そうなウラハッドや少女のアリエラでさえそういうのだから、皆もう骨くらいはどうでもよくなったらしい。流石にラスハルカは死体漁りをする気にはならないらしく突っ立っているが、他の連中はそれぞれ骨の山を探っていた。
 セイネリアとしても皆が宝探しをしている中で一人ボケっと見ているだけのつもりはないから、適当に足元を探って金になりそうなものくらいは拾っておく。
 ただ、いくら慣れたとは言っても流石に王座に近づいていく者はいないようで、その様には苦笑する。

「エル、一番高価そうなのがあそこにあるぞ」

 試しにそう言って王座を指さしてみれば、エルはこちらを見て顔をひきつらせた。

「いや……さすがにあれはヤバそうだからやめとくわ。王冠持った途端に呪われちまいそうだろ」

 死体漁りで王も他の連中もあるものか……とは思ったが、剣の事があるから慎重になっているのもあるのだろう。セイネリアとしてもなんとなく嫌な感覚はあるから、王の死体周りのモノに手を出す気にはなれなかった。他の連中もそれぞれ何か感じるものがあるのか、王座前の死体に近づく者はいない。

――どうせ持てる量には限界がある、全部持っていける訳でもないからな。

 あの女から残りの報酬が払われるかは怪しいところだから、今回の労力と危険分くらいの代価は貰っておきたいところだ。ただあまり欲張りすぎる気はない。欲張ると馬鹿を見るというのもセイネリアはよく分かっていた。

「いつまでここにいるのよ、もう用が済んだならさっさとこんなとこ出ましょうよ」

 だからアリエラがそう言いだした段階で、あっさり宝探しをやめた。

「ま、いいか。結構拾えたし」
「もういいだろ」

 他の連中も皆上級冒険者というだけあって、欲に目が眩んで引き際を見誤るような者はいなかった。場所が場所だけに長居をしたら何があるか分からない――という感覚は皆あるのだろう。だからそのまま皆さっさと荷物をまとめて入口へと向かう。

 けれど、その入り口を塞ぐように一人、立つ姿があった。

 別にそれはここにいたらおかしい人間ではない。
 むしろいて当然だから誰も気にしていなかったのだが、彼はただ無言で下を向いて、部屋から出る皆の邪魔をするように、入口の真ん中に立っていた。

「ラスハルカ?」

 エルが不思議そうに彼の名前を呼べば、彼が顔を上げる。

――そういえばさっきからあいつの声が聞こえていなかったか。

 入口近くにずっと立っていて白骨の山を見下ろしていたようだったから、実をいうとセイネリアからは彼の顔が見えていなかった。彼なら死体漁りに加わらないのもおかしいと思わなかったから……だから、セイネリアも迂闊だったと今は思う。
 顔を上げたラスハルカは、大きく目を見開いてから大声を上げた。

「『誰ガ、帰すモのか』」

 彼がアルワナ神官であるからにはこの事態もあり得ると、それを想像出来なかった自分の間抜けさに舌打ちして、セイネリアは手に持っていた黒い例の剣を抜いた。

「何言ってんだお前」

 エルはまだ気付いていない。だが彼がそうして近づいていこうとすれば。

「うわぁっ、離せこのっ」

 唐突にエルが怒鳴って足を振れば骨が飛んでいく。それが落ちたか、落ちる前か――そこで一斉に部屋全体からカチャカチャと乾いた音が鳴り出した。






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