黒 の 主 〜運命の章〜





  【41】



 それはどれくらいの時間が経っていたのか。
 セイネリアの視界に先ほどまでいた骨だらけの広間が映って、壁で明かりが揺れるのまで確認すれば、おそらく今のは一瞬の事だったのだろうと理解する。

「……なるほどな」

 魔槍の時と同じで、剣の中にいた者の記憶や知識がそのまま自分の中にある事を理解すれば、すべての事情は考えただけですぐに分かる。

「おいっ、大丈夫なのか?」

 エルの声を聞いて、セイネリアは顔を上げた。
 まったく、さっさと逃げていろといっただろう――思いながらも、メルー以外の全員がその場にいる事に今は安堵のようなものを感じる。
 セイネリアは自分の手にある黒い剣を見つめて苦笑する。

「まぁな。あまり欲しくもないが、貰えるものは貰っておくさ」

 この剣を持つ事で何が出来るのか、どう使えばいいのか、それは考えただけで分かる。そこは魔槍を手に入れた時と同じだ。ただこの剣の力が分かるからこそ気に入らない。使いたくはないと思う。
 そこでエルが急いでこっちにやってきた。じっとこちらの顔を見て、体の上から下まで確認して、安堵の声を上げて肩の力を抜く。

「ったく、お前がクリムゾンみたくなったらどうしようかと思ったぜ」
「何故さっさと逃げなかった?」
「いや、逃げようとしたんだがよっ、動かない奴はいるし……状況が状況で……逃げていいか迷うだろっ」
「こっちを気にせずすぐ逃げろと言っただろ」
「るっせ、お前が吹っ飛ばされたんだぞ、どの道お前がやられるような状況だったらすぐ逃げたとしても逃げきれねーだろよ!!」

 最後には逆切れ状態で怒鳴ってきたエルに、セイネリアは笑ってしまう。
 そうすれば他の連中も近寄ってきて、不安そうにこちらの顔を見てくる。
 セイネリアは剣を軽く持ち上げると、皆に少し茶化して聞いてみた。

「で、これは俺が貰う事で問題はないわけだな?」

 まだどこか状況が分からず呆然といった顔をしている面々は、剣から目をそらしながらもこくこくと頷いた。

「……一番許可をとらないとならない人物は、既にいないようだがな」

 今度は皮肉を込めてそう言えば、アリエラが明らかに怒って言ってくる。

「あのおばさん、この剣持ったらおかしくなるってわかってたんだわ、だからさっさと逃げたのよ」

――ま、そうだろうな。

 だが彼女は、セイネリアならこの剣を持てるかもしれないと考えていたようにも思えた。だから逃げてはいても遠くへはまだ行っていない。どこかで様子を見ている可能性がある。

 そこでカラカラと骨が崩れる音がして、床で倒れていたクリムゾンが動いた。
 先程までの状態を知っているから咄嗟に皆が身構えたが、特に暴れる事もなく頭を押さえながら起き上がった赤い髪の男は、セイネリアを見た途端に驚きと共に呟いた。

「……なんで、お前は平気なんだ?」

 その言葉で彼が正気だと分かった面々が安堵の息を吐く。
 セイネリアは肩を竦めて見せた。

「なに、これを使うにはちょっとしたコツと条件があるというだけだな」
「何だそれはっ」

 飛び起きたクリムゾンが食って掛かるようにこちらに近づいてくる。彼の疑問は当然だが、教えたからと言ってどうなるものでもない。
 それよりもセイネリアは部屋の中を見渡して、あるものを探していた。

「言ってわかる事でもないしな……と、あれか」

 クリムゾンは無視して見えた『ソレ』に向かって歩いていくと、セイネリアは骨の山の中に手を入れた。そうすれば確かにソレを掴めて、セイネリアはソレを骨山から引き抜いた。

「あぁ、それがそいつの鞘か?」

 エルに聞かれて、セイネリアは皮肉を込めて答える。

「そういう事らしい」

 抜いたのはこの剣のために作られた鞘で、剣に合わせてこれも黒い。剣を鞘に収めればそこでエルが安堵したようにこちらをちゃんと見て、セイネリアは軽く笑った。どうやら自分以外の人間はこの剣の刀身を見るだけで問題があるらしく、皆剣をマトモに見ないようにしていたため他の連中も明らかにほっとした様子を見せていた。





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