黒 の 主 〜運命の章〜 【31】 例の子供部屋はとりあえずそのまま放置して他の部屋を見ては回ったが、同じような事は起こりはせず、何事もなく2階の調査は終わった。昼飯は最初から各自適当に携帯食を取る事になっていたから、セイネリアは調査の途中で冒険者の携帯食としてはポピュラーなケルンの実を食べて終わりにした。ちなみにこれは栄養価は高いが苦くて不味い事で有名でもある。 他の連中もそれぞれ干し肉やらの携帯食を調べながら食べたらしく、調べ終わって合流した後に昼食の話をする者はいなかった。 「んじゃ魔法使いさん達を迎えにいくかね。セイネリア、お前は責任もって依頼主様を連れてこいよ。俺らはサーフェスを迎えにいくからよ」 終ったら2階に上がってすぐの階段前で待ち合わせる事にしていたから、皆が揃ってすぐエルがそう言ってくる。 「いや……依頼主は目的の場所に陣取って資料あさりに夢中だからな、他の調査が終わるまでは放置しといていいだろ」 「……お前、あの女がいると面倒なだけじゃね?」 「俺だけじゃなく、皆もあの女がいない方が楽でいいだろ?」 それには誰も否定をしなくて、まずは全員でサーフェスを迎えに行く事にした。アリエラの杖の光を頼りに1階に戻って薄暗い道を行くのだが、その間にも何か起こる事はなく、ひたすらメンバーの足音しかしない廊下を歩いただけだった。 「しっかし、ホントに何もいないモンだな」 「幽霊はいたじゃないか」 エルの呟きにそう返せば、彼は両腕を摩りながら嫌そうにこちらを見てくる。 「いや、そーゆーのじゃなくてよっ、動物とか、化け物とか……ところどころ窓は開いてるし入口だってちょっと開いてたじゃねーか。普通はそういう場合動物やら鳥やらが入り込んで勝手に巣作ってたりするもんだろーが」 さすがにエルも気付いていたか――と思いつつ、周囲の人間も口々に『そういえば……』と言い出す。エルの言う通り小動物の気配がまったくないという事は、普通に考えれば城全体に動物避けの結界のようなものでも張られているのかと思ところだ。 だがもう一つあり得る理由として、危険を察知して動物達が近づかないという可能性がある。そしてここに入ってからずっと感じているこの嫌な視線のような感覚を考えれば、セイネリアとしては後者の方ではないかと思うのだ。 「あぁ、あそこだ。サーフェースさーん」 広い角部屋の奥に明かりが見えれば、ラスハルカがそう言って近づいていく。見れば彼は床を見ているところで、目を離さないまま返事代わりに手を上げて振ってみせた。 「何か面白いものがあるのか?」 セイネリアがサーフェスに声を掛ければ、彼はやっと床から目を離してこちらを見る。 「うん、この部屋は大規模な魔法が使われていた形跡があるんだよ」 見れば確かに床全体に魔法陣らしきものがある。後は文字らしきものも魔法陣の中は勿論、周囲を見れば柱や天井にも書かれていた。 「確かにいかにもという部屋だな。というか、お前はこの文字が読めるのか?」 「まぁ……少しだけね」 サーフェスが肩を竦めれば、アリエラも言う。 「私も少しだけなら読めるわよ。でも見習いじゃなく魔法使いなら普通に読める筈よ」 「つまり、魔法使いが普通に使ってる言語で書かれているのか?」 「そうね、魔法書は大体これと同じような文字が使われているわ。見習いだと一部しか教えてもらえないのよ」 そこでサーフェスが更に含みのありそうな笑みを浮かべて言ってくる。 「もっと面白い事を言うとね、他の部屋にあった布や本らしきモノにも全部この文字が使われてたんだ。多分魔法限定じゃなく、これがこの城にいた人々の間で普通に使われていた文字なんじゃないかな?」 セイネリアは考える。魔法使いの間で専用の言語としてこの城が使われていた時代の言語を使用しているとなれば、この城の事を何も知らないとは思えない。同じ文字を引き継いでいると言う事は、残されたその記録を受けついでいると考えていい筈だった。 となればやはり、魔法使い――魔法ギルドはこの城、そしてこの城が治めていた国に関してかなりの事を知っていると思って間違いないだろう。そしておそらくはメルーも、知っている事でこちらに言ってない事が相当にあると思われた。 --------------------------------------------- |