黒 の 主 〜運命の章〜 【28】 城の2階は細長い通路に小部屋がいくつもあるような作りになっていた。一部屋づつ調べればいいだけだからやりやすいといえばやりやすい。 メルーの提案は、エルにとっては願ってもない事ではあった。勿論アリエラがいる段階でいきなりウラハッドに話を聞く訳にはいかないが、それでもこの面子なら一言二言程度なら他に聞こえず話す事が出来るかもしれない。せめてこの間の魔法使いの家で話していた彼の『彼女』に関する話が、あの事件の事だと確認したかった。 「ここは多分……侍女の部屋とかじゃない?」 開けた部屋の中を覗いてアリエラが言う。彼女いわく「どうせ『当たり』の場所はおばさんが自分で行ったところだから私たちはテキトーに調べればいいわよ!」という訳で、調査と言っても部屋を開けてざっと金目のものがないかを物色したらそれで終わりとしていた。ただし2階は部屋が多いためそれなりに手間は掛かりそうではあった。なにせ部屋の中を見るのはそこまで時間を掛けなくても、やはり開ける時は慎重に注意する必要があるからだ。 「んー……こんな立派な城の割りにはあんま金になりそうなものがねぇよなぁ」 金目的で受けた仕事ではないとはいえ、誰にも荒されていない昔の城なんてところにきたのならそれなりのものを期待してしまうのは仕方ないだろう。だがぱっと見で貰っていけそうなものはそうそう見当たらなかった。 「あの像とかは結構いいんじゃない?」 エルの言葉を受けてアリエラが何気なく廊下の像を指さす。 「いや……かさばって持って歩くの大変だし、そもそもあーゆーのは価値がわかんねーからなぁ」 「かさばるならあのおばさんの倉庫使えば……まぁ、そうね」 彼女もエル達がメルーを信用しきれていないのが分かったらしく、そこで納得してくれた。 「んじゃ次の部屋見るか。次はご主人様の部屋だといーなーっと」 そうして軽口を言いながら次の部屋のドアノブに一度エルは手を掛ける。軽く動かして鍵が掛かっていないのを確認してから中の音を確認しつつゆっくりドアを開けていく。開けてもすぐには中を見ない、罠があって何かが飛んでくる可能性もあるからだ。暫く待って何も起こらないのを確認してからアリエラが杖で中を照らす訳だが……そこでそっと中を覗いたエルは、お、と思わず声を上げた。その部屋は他の部屋とは明らかに内装の感じが違ったからだ。 「侍女の部屋……ではないわね。もしかしたら本当にご主人様の部屋かも?」 「マジかよ!」 エルは嬉々として中に入る。確かにベッドの作りが貴族仕様で、調度品も上物だった。ただ全体的にそれらは小さく、昔の人間は今よりもっと小さかったのか……などと考えていたのだが。 その時、カタカタと何かが震えるような音が聞こえた。 「何だ?」 エルとしては自分が音を立てている訳ではないから当然振り向いてアリエラとウラハッドの方を見る。だが彼等はただドア前に立っているだけで、エルの声を聞いても首をかしげるだけだった。 ――気のせい……じゃ、ねぇ筈なんだが。 今度は周囲を見渡せば、箪笥の上に乗っている人形と目が合って、一瞬エルはビクリと驚いた。 「なんだ人形かよ」 即座に安堵の息を吐いたが、見ている中でその目が合った人形の目の位置がすぃっと上に移動した。というか、人形自体が浮いていた。 ――え? 何が起こったのか分からないエルは、そこで思考が止まってぼうっとそれを眺めてしまった。だがその人形は暫く宙に立っていたと思ったら、今度は急激に、空中を滑るようにエルに向かって近づいてきた。 「わーーーっ」 そこで一気に事態を理解したエルは、反射的に長棒で人形を叩き落とした。それからそっと下に転がる人形を見る。とりあえず動きはしない。 「おい、何があったんだ?」 ウラハッドがやってきて、エルは彼の元に行こうとしたのだが。 途端、ガチャン、と大きな音がしたと思えば、今度は部屋全体からガタガタと音が鳴り出して……今度はエルもその原因が分かった。箪笥、ベッド、椅子、テーブル、それから他にも転がるあちこちにあるものが全て、震えて音を鳴らしていたのだ。 --------------------------------------------- |