黒 の 主 〜運命の章〜





  【27】



 やがて、今度は大きな階段の前につくと、メルーは一度足を止めた。それから後続の連中に向かっていつも通り偉そうに声を上げた。

「ここからは3つに分かれて調べましょう。私はセイネリアと、アリエラはエルとウラハット、サーフェスはクリムゾンとラスハルカね」

 言ってからまたこちらの腕に抱きついてきたから、セイネリアは了承を示して掴まれていない方の手を皆に向けて軽く上げた。
 エルがまた呆れた顔でこちらを見ていたが、彼も了承を返すように手を上げてアリエラとウラハッドの方についた。そこでアリエラとサーフェスもメルーと同じように杖を掲げてその先端を光らせたから、成程それで魔法使いを分けたわけかと納得する。
 冒険者として全員ランプと光粉くらは持ってきているだろうが、使わなくて済むならその方が楽ではある。それにランプ台のないランプだけの光より杖の光の方が明るい。城の中、特にこの辺りは完全に暗闇という訳でもなく高い位置にある窓からは光が入ってきているところも多い。見たところ上の階程明るそうで、手持ちの明かりがなくても歩くだけならどうにかなりそうだった。それでも、調べるとなれば杖の明るさは便利だ。

「じゃ、私達は向うに見える階段から塔の方に上がってみるわ。そっちの植物魔法使い達は1階をこのまま見て回って……もちろんあの広間は抜いてね。で、アリエラの組は2階にある部屋を調べて頂戴。何か危ないって思ったらへたに手を出さないで、後回しにして合流してから皆で行って調べるかどうか決めればいいわ」

 彼女の指示自体はまともではある。違和感を覚えるとしたら割り当てた担当箇所くらいだろう。まず確実にこの女はこの城の事もある程度分かっている、つまり彼女の目的はその塔の上にあると思って間違いないだろうとセイネリアは思う。

「じゃぁ、あとでな」
「あとで」
「では」

 とりあえず反対する者もいないため、各自何かあったら大きな音を上げるか持っている呼び出し石を使う事にして別れた。

「さ、行きましょうか」

 明らかに上機嫌な女は、こちらの腕に抱きつくとひっぱって歩き出す。セイネリアは大人しくついていったが、流石に塔に上る階段は広くないから腕を持ったままは無理だ。だからそこからは勝手に先に行く女をセイネリアをゆっくりと追いかけて上った。後ろから見ていても女の急ぐ様子はよく分かる。明らかにこの先に彼女のお目当てのものがあるという事だろう。

「で、お前の目的地はこの塔な訳か」

 だからそう聞けば、彼女は二人きりな事もあってかあっさり白状した。

「えぇそう。この塔の上が、魔法使いギネルセラの部屋だった筈よ」
「随分不便なところにいたものだな」
「そりゃーね、魔法使いっていうのは、自分の部屋に人を呼びたがらないものだし」
「自分は不便じゃないのか?」
「塔ならそんな不便じゃないわ。窓から出入りだって出来たでしょうしね」

 女は少し息を切らしながらも機嫌よく饒舌に説明してくれる。それだけを見ると思った以上に体力があるなと思うところだが、おそらくは魔法による補助があるのだろう。

「この城を住居としていたなら、わざわざそんな不便なところにいなくてもいいだろうに」
「そりゃー、彼はここの主じゃなくてここの王に仕えていただけだったんだもの」
「……さっきと話が違うな」

 セイネリアの声が変わったのが分かったのか、メルーが足を止めてこちらを見てくる。

「複雑な事情があるのよ。彼らに説明すると面倒だったんで適度に省略しただけ。嘘は言ってないわ」

 位置のせいもあるが見下した視線を向けてくる女を見返せば、彼女はまたすぐに前を向いて階段を上り始める。

「かつてこの辺り一帯を収める大きな国があった。そしてここがその国を収める王の城で、大魔法使いギネルセラはその王に仕えていた。けどギネルセラは王を裏切って国を滅ぼした。……ね、ちゃんとさっき言った事とつじつまはあってるでしょ?」

 それは確かに。だがそれなら最初から、滅びた大国の城跡を探しにいく、というべきだろうとも思う。そう言わなかったのは『滅びた大国』と言えない理由があったか……どちらにしろ、彼女の企みからすればその程度の誤魔化しは些細なものではあるのだろう。

 森で歩ている時とはえらい違いじゃないかと思うくらい、メルーは軽快に階段を上っていく。そしてとうとう、階段の先には終点となる部屋の扉が見えた。

「ついたわ」

 駆けあがっていく彼女の背中を見て、セイネリアも上って行った。




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