黒 の 主 〜運命の章〜





  【26】



 いくつかの崩れた建物跡や塔を通り過ぎ、一行は6つの塔の中心にある巨大な城の前に着いた。石造りの城の正面は鉄製らしい大扉があって、だがそれは少しだけ開いていた。隙間から見える中はただの暗闇で、中の様子として見えるものはない。そして当然、開いているとはいっても人が通れる程ではなかった。

「まずはこの中に入って探索、って事でいいんだな?」

 一応確認でセイネリアが聞けば、女魔法使いが立ち止まった位置から一歩前に出てくる。

「そうよ、当然じゃない」

 女の目は輝いて城を見ている。そうして少し開いた扉を指さして言ってくる。

「ほら、入るわよ、開けられる?」

 だからセイネリアは開けられるかまずその扉の片方に手を掛けた。すかさずもう片方の開きかけた方の扉にはエルが行く。
 長い年月晒されていた扉は最初は流石に動かなかった。
 だが体重と勢いを掛けてひけばそれは動きだし、その後はわりとすんなり開ける事が出来た。見ればエルが持っている方の扉も動き出していて、これなら手伝わなくていいかとセイネリアは思う。

 隙間から見えた通り、中は真暗だった。
 窓はあるのだろうが、それらはどうやら壁にへばりつく植物によってほぼ塞がれているようだ。
 その中へ、真っ先にメルーは入っていく。エルは焦るがセイネリアは止める気はなかった。女魔法使いは中へ入るとすぐに杖を掲げて何か呪文を唱えた。直後に杖の先端が明るく光った。

「おー」

 止めようとしていたエルが声を上げる。メルーはそこでくるりと振り向くと、エルに続いてゆっくり中に入ってきていたセイネリアの傍にきてその腕を掴み、ひっぱって中へと歩き出す。セイネリアは大人しく彼女に引かれるままついていった。次々と、他の連中も後ろから入ってくる。

「ま……いかにも、な廃墟だな」

 エルのいう通り、中はかつて城であった場所の廃墟らしい風景が広がっていた。どれくらい前のものなのかは分からないが、破れたりはしていても布が布として残っているから思ったよりも古くはないのかもしれない。
 扉は僅かに開いていたとはいえ、中はそこまで荒れた様子は見えない。勿論埃だらけだしあちこち壊れたものも転がっていたが、少なくともクリュース建国以前の正確な記録が残っていないくらい古いものと考えれば、中は割合そのまま残っていると思えた。

「さすがにこんなところだと盗賊もきてないようですね」
「当然でしょ」
「えぇまぁ……それにしてもどれくらい昔のものなのでしょうね」
「さぁ……そこまでは私も知らないわ」

 いつも通りラスハルカとメルーの雑談が始まるが、今の彼女の言葉は嘘だなとセイネリアは思う。そもそも『ここを住居としていた魔法使い』の残したものが目当てなら、その魔法使いがどれくらい昔の人間かは分かっている筈である。

――さて、どんなヤバイのがあるかだが。

 実をいうと入ってからずっと、セイネリアはここの空気に何か嫌なものを感じていた。どこか肌寒いのは光が入らないからと言えても、誰もいない筈なのに人の気配というか見られているような感覚がある。魔法的な方面でヤバイものがあるのかもしれない、なにせやたら強い魔法を感じる箇所がある。先程まではしゃいでいた女魔法使いも今は警戒するような顔をして辺りを見ていた。

 とりあえず扉から真っすぐ奥へ歩いていけば、やがて長い廊下の先に豪奢な細工が施された大扉が見えた。扉は既に開いていたが、中の様子が見えた者から即足を止めた。部屋の場所や作りからすれば謁見の間だろうそこには……見えているだけで白いモノ、つまり白骨死体が折り重なるようにいくつもあるのが見えた。
 ついでに言えば先程から感じていたやたらと不穏な魔法の気配もこの部屋の中かららしい。

――これはまた随分と分かりやすく派手な光景じゃないか。

 いかにも何かがあって大量に人が死んだ場所という事で、『何か』があるのは確実だろう。だからセイネリアは部屋に一歩踏み込み、行くか? と聞いた。

「いいわ、ここは後回しにしましょう」

 メルーが言ってこちらの腕を引っ張ってきたからセイネリアも部屋から出た。ここがヤバイのは確定として、今は彼女に従っておくべきだろう。彼女の目的が魔法使いの残した資料なら確かにここにはなさそうではあるし。後回しにする、というのだから先に目的を果たしてさっさと自分は逃げてもいい状況にしたい、というところかもしれない。

「いくらお宝があっても、呪われてるアイテムとかならいらないでしょ?」

 メルーはセイネリアの手を引いて歩きながら、それを僅かに笑って言った。やはりこの女はあそこが何か……へたをすると何があったのかまで知っているのだろうとセイネリアは思う。

「呪いか。どんな呪いかにもよるな」

 だから軽口でそう返してやれば、女はこちらをちらと見てまた含みのある笑みを唇に乗せる。様子からすれば何かありそうな事はバレバレだが、彼女が裏切るまでは言う事には従うつもりだった。




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