黒 の 主 〜運命の章〜





  【25】



 翌日の6日目も基本的には森の中を進むだけで終わった。
 ただしさすがに人が入った事がほぼない程奥までくれば、樹海外では見た事もないような化け物との遭遇率も上がってくる。昨日のグラジャ・パネという化け物の別の姿の奴にも会ったが、本体で子供程度のサイズしかない奴だったため、セイネリア達が抑えている間にサーフェスが藪の中に取り込んで足止めし、無駄な戦闘は避けてさっさと逃げた。分身達は本体とは一定距離以上は離れないらしく、本体さえ足止めすれば追ってこなかった。

 サーフェスの植物魔法は使い勝手がよく、その後も邪魔な岩を木で持ち上げたり等いろいろな場面で使えた。そのおかげで前より進めて遅れをかなり取り戻すことが出来た。

 メルーの言った予定では、あの魔法使いの家から3日。
 そして実際はあそこからは4日目、樹海に入ってから7日目の夕方近くに、とうとう一行は目的地へ着いた。

 深い森が突然途切れて、まず見えたのは崩れた城壁。
 緑に囲まれ、土に埋もれながらも立派な城壁が彼等を迎えた。その先に行けば、崩れて原型を留めていないがあちこちに建物だったものや柱、像のようなものや水場らしきもの、階段や石畳が現れた。
 そうしてその先、石畳の続く先には大きな……緑に覆われた巨大な城が立っていた。北の大国と呼ばれ、攻め入られたこともない首都のクリュース城を知っている者達でさえ呆れる程、それは巨大な城跡だった。

 とはいえ時間が時間であるから、流石にここではあの魔法使いの家のようにちょっと調べて中に入ろうとなどと言い出す者はいなかった。一行は一度戻って城から離れた城壁の傍で夜を過ごす事にした。雇い主は当然だが終始ご機嫌で、目的地に無事ついたという事でメンバー間の空気も明るく活気があった。
 明日は日が登ってから探索をしようと決めたのもあって、その夜は少し遅くまで起きて城を調べる段取りを決めたり等してから休んだ。

 翌朝、各自自分の装備や道具の確認をしてから、パーティは城へと向かった。

 昨日はへたに近くまでいかず遠目でしか見ていなかったのもあったが、近づけば近づく程その城の規模には驚かされる。セイネリアは驚くより別の事を考えていたが、エルやラスハルカ、ウラハッドやサーフェスはしきりに感嘆の声をあげていた。

 ただし当然、それだけの規模の城と言うなら誰もが疑問に思う。

「これが魔法使いの居城だって?」

 エルの声には皆同意するところだろう。仕事を依頼する上でのメルーの説明によるならここは『魔法使いの居城』である筈だった。だがここまでの規模の城が魔法使いのためだけのものとは思えない。それこそ樹海にまつわる噂通り、かつてあったという大陸を統べた大国の城というのが相応しい。

「そうね、昔このあたりにあった大きな国を滅ぼして、そこにそのまま住んだ魔法使いの城って事らしいわ」
「はん……なるほどね」

 エルはそれで一応納得した様子を見せ、他も特にそれ以上追及する者はいなかったが、それでも皆どこか引っかかるものがありそうな顔をしていた。
 勿論、セイネリアも疑っていた。
 彼女は確実に何か隠している。彼女の言葉は最初から嘘だらけだろうと思っているから素直に信じるなんてのはあり得ない。ただし嘘の中に真実も混ざっている事は確かで、この話からすれば『昔あった大きな国』の城であった事は間違いはなさそうだとは思う。

――噂は本当だった訳か。

 樹海にはかつて大陸を統べた大国があった、なんてのは眉唾モノだとセイネリアも思っていた。だがこれを見ればそれは本当らしいと思わずにはいられない。

 昨日ついた時は夕方だったため建造物跡の形はあまりよく見えなかったが、日の光の下ではよく見えて、皆周囲を興味深く見ながら城へと向かった。
 建物の形式は今とはやはり違ったらしく、敷地内には王の居城を中心としていくつも塔や別の建物跡がやたらとあった。その中でも特徴的なのは城を囲むようにあったと思われる6つの塔で、皆崩れているからかつてどれほどの高さがあったのかは分からないが、残っている状態で一番高いものは城壁の倍程あった。それだけでも当時の技術が相当のモノだったというのは分かる。
 勿論、全てが緑に覆われ石壁が見える部分の方が少ないが、石畳のせいで敷地内にはあまり大木はなく木々の中に埋もれてはいない。だから城壁内、特に城の上はひらけていて空も見る事が出来た。

 となれば当然疑問も湧く。こんな大きな遺跡、どうして今まで誰も見つけられなかったのだろうと。
 空を歩ける魔法使いでも樹海の上はいつ落ちるか分からないから無理とはいえ、本気で魔法使い達が樹海探索をするつもりならこれだけのモノなら見つけられないほうがおかしい。

――つまり、そもそもここを魔法ギルド側が知らない、というのがまず怪しい訳だ。

 嫌な予感しかしないがここまで来て下りられるものでもない。それにここまで来てただ眺めて帰る気もない。いつも通り先頭に立ってセイネリアは進んでいく。ただ遺跡を住居としている動物や化け物はいないようで、小動物や鳥さえ途中で姿を見る事はなかった。そこもオカシイと言えるだろう。





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