黒 の 主 〜運命の章〜





  【24】



 枝や葉で蓋をされた空は、僅かでも暗くなったと感じたらあっという間に夜になる。そのため今回は火の準備と結界を優先して、夕飯は狩りをせずに手持ちの食料だけで済ませる事にした。
 皆で火を囲む中、いつもなら皆の輪から少し離れた位置に座るセイネリアだが、メルーがぴったり横についているせいで仕方なく輪の中に座っていた。

「アレ、食べられたんでしょうかね」

 昨日の残りの肉片が少しだけ入っているスープを飲みながらラスハルカが言えば、お約束のように知識を披露するのが好きなメルーが話に乗る。

「グラジャ・パネの事?」
「はい、小さいのを何匹か倒したのであれを1、2匹もってくれば食べられたかなと」
「そうねぇ……食べられたかもしれないけど。分身の死骸を持っていくと、それを追ってくる可能性があるわよ。仲間意識? が結構強いみたい」

 皆が黙っている時にこの二人だけが話しているという状況は珍しくない。だから基本他の者は黙っていたが、隣で体をつけて座っているメルーが伺うようにこちらを向いたせいでセイネリアは仕方なく口を開いた。

「仲間というより、分身達はエサだからじゃないのか?」

 メルーはそれに機嫌よく笑った。

「確かにそれもあるわね、本体になるのが決まったあとは残った分身達をまず食べて大きくなるから、本体にとっては非常食扱いでしょうね」
「成程、自分のエサを取られたとなれば……追ってきそうですね」
「まぁ、あそこは逃げて正解だろう」

 そもそも急いであの場を離れるように言ったのはラスハルカなのだが、今になってそんな事をのんびり言っているのは少しおかしい。

「そういやあの化けモン、光石が効かなかったんだって?」

 エルの発言でセイネリアは彼を見る。

「あぁ、まったく動じなかった。おそらく目が見えないか、視力に殆ど頼らないで生きてる生物なんだろ。そうなれば鼻か耳がいい筈だからな、鼻の方で助かったが」
「耳の方なら大きい音なんだろが……ちっとすぐには難しいよな」
「そういうのが得意な魔法使いもいるけどね。というか神殿魔法では結構あったと思うんだけど」

 今度は話に入ってきたのはサーフェスだ。そこでセイネリアは気になっていた事を彼に聞いてみた。

「そういえばあんた、木を伸ばしてた……いや、成長させていただろ?」
「そうだよ。植物系魔法使いにとって植物を好きなように成長せられる、って術は基本だからね」
「なら枯らしたり、勝手に折れさせたりとかも出来るのか?」
「自ら折れろ、とかは無理。イキナリ枯らせるのも無理だけど、急激に成長させすぎて結果的に枯らす事なら出来るかな」

 それを聞いた理由は単に、この森の中で進むのを邪魔する木や藪を魔法が使えるところなら簡単に排除出来る――という可能性を考えてだ。

「じゃあさ、こう……雑草やら細い木やらが行く手を邪魔してるとこをだ、魔法一発で左右にざっと開いて道が出来る――とかは無理かね、やっぱ?」

 似たような事はエルも考えたらしく、ただ言い方が彼らしい。

「生憎、僕の能力は植物の成長を操作する事であって植物を操る事じゃないよ」
「そっか、無理かぁ」

 ただ珍しく、この話にメルーは参加せずそっぽを向いていた。魔法の系統が違うから興味がない……のだとは思えないが、微妙に考え事をしているようにも見えた。

「どうかしたのか?」

 だから聞いてみれば、メルーは顔を上げてこちらを見てくる。最初は少し驚いたように……けれどすぐに笑みを浮かべると、彼女はセイネリアにまた寄り掛かってきた。

「別に、簡単にはいかないわねと思っただけ」
「だが、目的地はもうかなり近いんじゃないか?」
「そうね……ただやはり貴方の言っていた通り、予定より掛かりそうだわ」

 地図で確認した時から考えれば、遅くともあと2,3日中には目的地に付く筈だ。目的を果たした後、この女がどう動くか――その前に、おそらくは彼女につくかどうか、セイネリアが保留にしていた返事を確認してくる筈である。

 勿論、目的を果たして何事もなく皆で帰り路について解散――というのがベストなのだろうが、セイネリアとしてはこの女がどうする気なのかそれを楽しみにしているところもあった。我ながらイカレていると思いはするが、先が分からないもの程面白い。それが危険であればあるだけ、生き残った時に高揚感を感じられるからだ。




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