黒 の 主 〜運命の章〜





  【20】



 樹海に入って4日目の朝。
 やはり夜明けと共に置き出した面子はさっさと朝食を済ませ……とは言っても、折角建物の中というのもあって前日よりは少しだけゆっくりして、その後に今後の予定を話し合う事にした。
 朝はまだ少し肌寒いのもあって、中央の部屋は暖炉を焚いていた。それを背にして女魔法使いは皆に声を掛ける。

「まず、これを見て頂戴」

 いいながら女は地図を広げる。ただ地図とは言っても樹海周辺の領地の形が分かる程度の大雑把なもので、当然樹海は形だけしか分からない。

「私たちが樹海に入ったのはこの辺ね。で、現在地はおそらくこの辺り、目的の遺跡はここよ」

 それには数人から、おぉ、という声が上がる。道などないのだから道案内には使えなくても位置関係を見るだけならこの地図程度でも一応は事足りる。女の示した場所を見れば樹海に入ってから目的地まで半分来たかどうかというところで、先が見えた事もあるのか皆の表情や声は明るくなる。

「単純に、ここまでかかった時間を考えれば残り3日ってところかしらね」
「最初は楽な道だったし奥へ行けばさらに歩き難くなるだろう。もう少し掛かると思った方がいい」

 セイネリアが言えばメルーはこちらをちらと見てから、そうね、と言って微笑んだ。エルがそれにやたら呆れた目を向けてきたがセイネリアは無視した。

「まぁともかく、無暗に歩くより目的地までの距離が大体わかればやる気が違うってモンだ。今日もがんばって歩きますかね」

 言ってエルが立ち上がれば皆次々に立ち上がる。
 セイネリアも立ち上がればメルーがこちらを見てきたから、彼女の傍に行って立ち上がるのを手伝ってやる。

「ありがと」

 やはりエルが顔を顰めてこちらを見てきたが、別に気になるものでもない。セイネリアとしてはこの女が隠している事、企んでいる事を探りたいだけだ。その為には女の自己満足に多少付き合ってやるくらいは構わない。
 現状、彼女につくかという問いに返事は返していない。
 セイネリアとしては今のところは彼女につく気はないが、全部の事情が明らかになって彼女の目的の方が面白いと言うのならつかない事もない、というところだ。だから今のところはまだ確定でない分突き放していないのもある。

 各自片づけをして、自分達がここにいた形跡を出来るだけは消す。手間がかかる分は話し合い前に終わらせておいたからそこまで時間がかかる訳ではない。終ればさっさと外に出て、各自装備の点検をする。方向を決めるための石投げは昨日のウチにやっておいたから、今日はすぐに出発出来る。

「ンじゃ出発すんぞ。おい、セイネリアっ、お前先頭だろっ」
「あぁ分かった」

 家を出るまではメルーがこちらの腕を掴んでいるのも好きにさせていたが、エルのその声には腕を離させてさっと前に向かった。勿論、行けば行ったで、早速エルからは嫌味を貰う事になる。

「お前本気でいろいろ趣味悪ィよな」

 横についた途端ボソっと呟かれたそれにセイネリアは笑って返す。

「なに、守備範囲が広いだけだ」
「ってもよぉ……」
「仕事としても雇い主には機嫌よくいてもらった方がいいだろ?」

 エルは黙る。
 その後ろでサーフェスが笑っていたが、聞こえていたのは彼までだろう。ともかくその日もひたすら樹海を歩く事になった。






 4日目もただひたすら歩いて、大きな問題はなく一日が終わった。休憩や話し合いの時、メルーがセイネリアの横に座るようになったが、毎回毎回エルはそれに呆れた視線を投げては来たもののその他のメンバーは無関心を装っていた。

 そうして5日目、出発して暫くはまたいつも通りの道なき道を進んでいたが、その日3回目の石を投げて方向を確認した後、少し厄介な状況になった。

「向うか……」
「どうする? 迂回するにも厳しいかね」

 メルーが指さした方向は大きい段差があって下へと下りる事になる。だが問題はそこではない。段差の下に動物の毛や骨が落ちている。おまけにデカイ糞が見える。これはどう見ても肉食獣の大物が近くにいると言う事だろう。

「ここから下りるのはマズイだろうが、このまま上を行くと離れすぎる。もうすこし先に行ってから下りるしかないだろうな」

 彼女の言う方向へ行くにはどうしても下に下りなくてはならない。ならばソイツが食事場としていない箇所から下りて、出来るだけ会わないよう慎重に行くしかないだろう。セイネリア達は下を確認しつつもう少し段差沿いに上を行く事にした。




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