黒 の 主 〜騎士団の章・二〜





  【29】



「……作戦続行、か」

 青い顔で声も出せない隊長に代わってバルドーが呟く。
 それでそれぞれの冒険者支援石を凝視していた面々がため息を吐いた。作戦中止の場合は砦から赤いのろしか光石が空に上がり、作戦続行の場合は会議メンバーの隊長以外の支援石が呼び出し石を使われて光る、という事になっていたらしい。作戦変更で別途指示がある場合は隊長の石も光るそうで、そうであれば水鏡術の石を使用してその指示を聞くという事になっていた、が……バルドーや傭兵部隊のリーダー達の石が光る中、隊長の石だけは暫く待っても光らなかった。

「ならおそらく、ソド族へ行った部隊がもう作戦中止に出来ない状況なんだろうさ」

 セイネリアが言えば、あのやる気だけはある無能指揮官を思い出したのか、俯いて話を聞いていられる状況ではない隊長以外の面々が苦笑する。
 隊長とそれぞれの隊のリーダーが格が集まっているこの場には、本来ならセイネリアの居場所はない。バルドーが来いといったからいる訳だが、それで文句を言う者は誰もいなかった。ここでは我が隊の隊長様が一番偉い人間になる訳だから、その隊長が文句を言わない時点で当然といえば当然だ。バルドーも隊長がセイネリアに対して妙に恐る恐る接しているところから察して、『来い』と言ったのだろう。

「となればこちらも予定通りダンデール族を攻めないと命令違反になる。治癒役達に確認してから出発だな。向うの部隊が戦闘に入っているなら、こちらも出来るだけ早く仕掛けないとならない」

 それにはまた溜息が返る。彼らも作戦続行が決まった段階でそれは分かっているが、出来れば一旦砦へ戻って出直したかったのだろう。なにせこの分だと戦闘が夜に掛かる可能性が高い、蛮族相手の森での戦闘で夜は避けたいと思うのは当然だ。

「幸い戦力自体はそこまで大幅低下した訳ではない。ただ次の戦闘に入る前に、今回の戦闘を受けて意識を変えておく必要がある」

 言えば、その意味を誰よりも一番理解している砦兵の代理リーダーとなった男は、ぐっと唇を引き結んでから自嘲気味に呟いた。

「いつもの手で楽にいける……などと油断してはいけない、という事ですね」

 セイネリアはそれに、そうだ、と言ってから言葉を続ける。

「相手も人間だ、何度も同じ手を食らえば対策を考える。それと……連中がやってた目隠しだがな、あれはクリュース国内で出回ってる奴だったぞ」

 ざわり、とそれにはそれぞれが驚きの声を上げた。
 ただの布を目の上に巻いただけでは光石の光はそう簡単に防ぎきれない。だからクリュース国内では、それでも遮れるように目に当てる部分に厚みのある特種素材を入れたものが売られている。レンファンもそれを使っていた。だが勿論そんなものをダンデール族が作れるわけがないし、彼らがクリュースに来て直接調達するのも難しい筈だ。

 となれば答えは簡単で、ケイジャスから入手したのだろう。

 ケイジャス自身は内心クリュースに対して友好的な意思を持っていなくても、表面上は一応友好国という事にはなっていて国間の行き来が出来る。ただ基本クリュースの製品は他国を経由して買うと値段が跳ね上がる筈で――それを元に考えればあの数の目隠しをダンデール族が直接買い付けたとも思えない。となれば答えはすぐに出る。

「今回のダンデール族には、ケイジャス側がかなり関わってるって思った方がいいって事だな?」

 バルドーが全員の意見を纏めるように言えば、それに否定を返す者はいなかった。

「そうだ、だからダンデール族が今までと違う手を使ってくる可能性は高い。ケイジャス側からは物資だけではなく、こっちの方の支援も入ってるだろうしな」

 言いながらセイネリアが頭を人差し指で軽く叩けば、他の連中はまた溜息をついた。




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