黒 の 主 〜騎士団の章・二〜





  【25】



「ひ、う、うあぁぁぁっ」

 そして恐怖で動けずにいた兵がまた一人、槍で刺されて投げ捨てられた。
 どうやら目隠しをしているのは十人程。その背後近くに光石をまともに見たらしい者が蹲っているのを見ると、目隠しをした奴にそいつらが指示を出して歩かせていたのかもしれない。ともかく今暴れているのは目隠しの連中で、だが彼らは目が見えないだけあって基本近くにいる者か、攻撃を仕掛けてくる者を殺しているだけだ。

 それでも、なら向かっていかなければいいという話でもない。
 足が震えてのろのろ逃げようとした馬鹿が餌食になる。崩れたのなら下がればいいのに、光石にやられて蹲ってる蛮族を倒そうとした馬鹿が殺される。

――これは指示役が真っ先に殺されたパターンだろうな。

 それで指示が飛ばないから、各自バラバラに動いて自滅している。今回こちらにいる砦兵の隊は兵だけを貸したような状態だったから隊の中に隊長と言える人間がいなかった。だから仲間内で人望のある一人が指示役をやっていて、相手を舐め過ぎて先頭に立って突っ込んで死んだ……そんなところだろう。
 しかもどうやら蛮族達は光石を合図にしていたらしく、光石を警戒して目隠し部隊と距離を取っていた後続の連中が声を上げてやってくるのが見えていた。後ろからはセイネリアに少し遅れて予備隊と傭兵部隊の連中が来ているのが分かるが、身軽さと森慣れの関係で距離はあっても向うの方が早いかもしれない。

 魔槍を呼ぶ事も考えたセイネリアだがこの場では使えないと判断し、わざと相手の気を引くために声を上げると一番先頭にいる大柄な男に向かって行った。

 相手は、すぐに反応してまず槍を伸ばしてくる。
 それを避ければ、すぐに引いてまた伸ばす。
 今度はわざと大きく横に避ければ、男はまず体の向きをこちら側に変えてから前に槍を伸ばしてくる。

――やっぱりな。

 槍というのはかなり使い勝手がよく、剣に対しては基本そのリーチの長さ分有利だ。だがここは広い戦場ではなく森の中で、木や藪、蔓があちこちにある。そういう場所での長物は扱いが難しい。しかも今、この男は目隠しをしている。恐らく人の動く気配や音を頼りに動いているから木や障害物には気付き難い。
 だから、基本突く事しか出来ない。
 振り回してモノに当たる訳にはいかないから相手を突き刺そうとする使い方が基本で、後はいいところ縦の動きで叩いてくる程度だろう。つまり、棒術的な使い方はここでは殆ど出来ない。セイネリアも振り回せない時点で魔槍を呼ばない方がいいと判断した。

「がぅぁxxxxx」

 蛮族が何かを叫ぶ。だが他の目隠しをしている蛮族は助けるためにすぐにやっては来ない。当然だ、目隠しをして槍なぞ使っていたら一定の距離を取らないと同士打ちの可能性がある。それくらいは理解している辺りただの馬鹿ではない。
 蛮族の男は避けられても必死になって槍を伸ばしてきたが、セイネリアが木を背にして槍を避ければ槍はその木を刺し、槍の動きが一旦止まる。それだけの隙があれば十分で、セイネリアは大きく踏み込んだ。

「xxxxっ」

 蛮族が叫んで、目隠しを取ろうとした。
 だがその時にはもう、セイネリアはその蛮族の目の前にいて、驚いて目を剥く蛮族が何かを言おうとした時にはセイネリアの剣がその腹を抉っていた。

――目隠しを取るなら、もっと早くやるべきだったな。

 そうすればもう少しマトモに戦えたろうに。
 ただ男の最後の叫びはどうやら仲間にそれを伝えたものらしく、周囲の蛮族達が次々と目隠しを取っていく。それを見てセイネリアは一旦剣を腰に戻すと声を上げた。

「相手をよく見ろっ、目隠しをしていたから光石が通じなかっただけで後の対応は今までと同じだ、焦るなっ、すぐ味方もくるっ」

 仲間を殺された事で、蛮族達がセイネリアを目掛けて走ってくる。そのせいで砦兵達は敵に狙われる事がなくなって逃げようとしていた者も足を止めた。
 そこへ、後続の蛮族達がやってくる。
 だが今度は砦兵側もちゃんと対応が出来ていた。
 槍持ちの兵が蛮族とむき合う。元々砦兵の槍の方が長さがあるから有利なのは当然で、彼らもこの森自体には慣れているから振り回したりはせずに前に出して蛮族達の足を止める。剣を使っているリパ信徒は自分に『盾』の術を使ってから槍を避けた後突進する。

――なんだ。やはり落ち着けばちゃんと使える連中じゃないか。

 自分に向かってくる槍を木を盾にして避けながら、セイネリアは周囲の状況を確認した。既に予備隊の連中も戦闘に参加して周囲は一気に混戦状態になっていたが、少なくともこちらが不利な状況には見えなかった。




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