黒 の 主 〜騎士団の章・一〜





  【27】



 いくら技術を突き詰めても圧倒的な力差はどうしようもない。基本的に力だけの相手なら技術だけで勝つ事は可能だが、それでも事故はあり得る。相手の力を巧く受け流しても、力差があり過ぎれば強引に修正される可能性がある。
 ソーライのように考えるより強引に押し込んでいく相手だと、へたに受け流すのも危険で基本は避けるのが主体になる。いくら大振りしたからと言っても危なくて簡単に接近出来るものではない。

 また観客が沸く、ステバンの大振りに合わせてファンレーンがカウンターで攻撃を仕掛けたからだ。だがそこはステバンも分かっているから彼女の腹を蹴って相手の体を突き飛ばす、そこで剣を伸ばせばステバンのポイントがまた入った。
 更にステバンはそこから強引に突っ込んで行って彼女の腹に剣を当てた。ただし彼女の剣もステバンの肩に当たったからお互いにポイントが入る。とはいえこれはステバンも最初から相手にもポイントが入る事を分かっていての行動だろう、なにせ彼はこれで5ポイント目が入る。

「勝者、青、ステバン・クロー・ズィード」

 熱狂的な歓声と拍手が会場を包む。終わった途端、片膝をついてガクリと疲れた様子を見せたのはステバンの方だった。試合中はどうにか保っていたが、やはり相当に疲れは溜まっていたらしい。それをファンレーンが引き上げてやって、互いに礼を交わす。そこでまた拍手が起こった。

――ステバンが勝つのは決まっていたが、確かに彼女のあの戦い方は面白いな。

 力で適わない相手に対する戦い方――そもそも自分より腕力がある相手とほぼ戦った事がないセイネリアとしては真逆の視点での考え方だが、だからこそ面白いし参考になる。
 セイネリアは自分の力に自信があるが自分より上の人間がいても当然だとは思っている。いつかはそういう相手と戦うかもしれないと思っている。だから、そういう時の為に彼女の戦い方は参考になる。自分にない視点、自分にない考え方からの戦い方を知る事はそれだけで糧になる。ありえる先の時のため、出来れば彼女とはそのうち一度手合わせしてみたいものだが……。

「良い戦いだったな」

 拍手をしながら隣の大きな男が言ってくる。セイネリアは、あぁ、と軽く返事を返した。すると向うはこちらに体毎向けてきて、にやりと含みのある笑みを浮かべて言った。

「それで、貴殿なら彼女とどういう戦う?」

 今度はセイネリアも相手の方に顔を向ける。

「あんたと同じだ、力で押し切るさ。あの手の相手には小細工をしない方がいい」

 ソーライは満足そうに口角をさらに上げる。

「そうだ、流石に分かっているな。勿論、俺との試合では純粋に力でぶつかってくれるのだろうな」
「勿論だ。それにそもそも馬上槍では小細工などする暇がない」

 それには口を開けて豪快に笑ってから、ソーライはセイネリアの背中を叩いてきた。

「まったくだ、お互い真っ向勝負、気持ちの良い試合にしよう」
「そうだな」
「……まぁ、実を言えば貴殿とは剣の方でも戦ってみたかったんだが。それはまた、その内に頼む」
「あぁ、こちらからも頼む」

 それでソーライは楽し気に笑うと手を振って離れて行った。
 次は馬上槍であるから長めの休憩時間が入る。ソーライもセイネリアも出場者であるからこれから準備しなくてはならないのだが、彼は試合前に行く場所があるという事で早めに準備すると言っていた。

 確かにソーライと剣で当たらなかったのはセイネリアも残念だと思っていた。あの手のタイプとの剣での力勝負はぜひしたかったところだが……競技会のおかげで一応知り合いにはなれたから、今後はこちらから彼らに声を掛けて会う事も可能だろう。本来なら予備隊の人間が守備隊の人間に話しかけるなんて事は滅多にないそうだが、かといって別に禁止されている訳でもない。その内改めて手合わせも出来るだろう。

 そういう意味では競技会に出た意味があったなと思いつつ、セイネリアも選手控室へ向かう事にした。



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