黒 の 主 〜冒険者の章・八〜 【27】 篝火をぐるりと回って少し歩けば例の小屋近くの広い場所が見えて、忙しそうに行きかう兵士達が見えてくる。けれどもう少し歩いて周囲が見渡せるようになれば――計画を聞いて知っていたとはいえ、レッキオは思わず鼻を手で押さえて足を止めてしまった。 「確かに……これは……」 「あぁ、酷いよな。まぁこうなるのは奴なら予想できたことだが」 戦場の風景も知っているレッキオでさえ反射的に足を止める程、それは酷い光景だった。辺りを満たす死臭は慣れないモノなら吐くに違いない。盗賊達が逆らう気をなくすくらいの惨状を見せるとは聞いていたが……確かにこれは言った通りの光景だとしか言いようがなかった。 「あ、これはレッキオ様っ」 丁度そこで、捕まえた盗賊を連れてきたらしい兵士がこちらを見つけて礼をしてくる。それに手を上げて返してから、ついて歩いていく盗賊達の生気が抜け落ちたような白い表情を見てレッキオは我知らずため息をついた。 ――確かにこの状況は……絶望しかないだろうな。 「奴らに同情なんてする必要はないと思うぞ」 そこでそう声を掛けられて、レッキオはクーア神官を見た。 「向うは仲間を助けて、あんたと隊長を殺して支援石を取り戻したらここを焼き払うつもりだったからな。レイペ信徒がやけにいると思ったから聞いてみたら白状したさ、一歩間違えば立場は逆だった訳だ」 それ自体は驚く事ではない。実体は冒険者だとしてもあくまで盗賊のふりをするならその方が『らしい』し、あの男がいなければそれは成功していたかもしれないと思う。 「確かにそうですね。ただなんというか……あの男の前に敵として立つことになった連中の不幸をちょっと不憫に思った程度の話ですよ」 「はっ……確かにそれには同意する」 クーア神官も周囲を見て苦笑する。この男もただ転送能力があるだけでなくそれなりに場慣れしていて機転が利く。盗賊捕獲の時も、盗賊を追っているだろうセイネリアと合流しようと急いでそろそろ近いかと思った辺りで、彼が転送でやってきて二人づつ全員をセイネリアがいる近くの森へと飛ばしたのだ。ついでにイキナリ全員で出て行くのではなく、ヴィンサンロア信徒の男がまずリーダーの女を捕まえると言い出して……おかげで逃げようとした盗賊達を余計な戦闘もせずにあっさり捕まえられた。 なんというか、あの男の回りにいる人間は、細かい指示などなくても動ける連中ばかりなところも感心するところだ。 「ところで……その、貴方はフリーの冒険者なのでしょうか? それともあの男と普段から組んでいるのですか?」 どうやってクーア神官など連れてきたのだろうと思って聞いてみれば、エデンスはちょっと困ったようにこめかみ辺りを掻いた。 「んーどっちでもない、が正解だな。奴との仕事は初めてでね。いろいろ面倒な事情があって今回手伝う事になっただけだ」 「その割には打ち合わせていないのに随分連携が取れていたように見えましたが?」 するとクーア神官は唇に笑みを浮かべて、少し揶揄うように自分の目を指さした。 「それは当然この目でよく『見て』たからな。それに状況自体結構面白くなってきたのと……ま、『あんたが目的の為に最善だと思って動くのなら指示外でも好きに動いてくれて構わない』って言われてしかも『それで失敗してもどうにかはする』なんて面白い事言われたらちょっと余計に動きたくなるだろ?」 「そうですか……」 この神官があの男と初めて組んだ、というのも驚きなら、あの男が言ったという発言も驚きだった。確かにそう言われたなら、能力に自信がある人間ならちょっと考えて動いてみたくはなるという気持ちは分かる。そしてそんな発言をする人間なら、あの男は化け物であり――。 「私も、そんな事を言える『大物』になってみたいものですね」 「確かにあれは、規格外の大物だな」 くくっと笑うクーア神官につられて、レッキオもまた笑ってしまった。 --------------------------------------------- |