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8. それから数日後、ヒイロは一人でプリベンター本部を訪れた。 表向きの用件は、頼まれていた調査の報告。 とはいえ、本当にそれだけであるなら、別に直接来る必要などはなかったのである。わざわざ足を運んだのは…五飛と…現在手伝いで来ている筈のトロワに話したい事があったからだった。 だが、意図せずに起きた偶然の為、それは更にヒイロにとって都合の良い結果をもたらす事になった。 「あれ?ヒイロ?君も来たのですか?」 最近では忙しすぎて画面でしか見なかった顔が、笑みを纏って向けられる。 偶然にしてはまるで示し合わせたでもあるかのように、カトルが来ていたのだ。 ************ どちらにしろ、カトルにも話をするつもりでいたので、この偶然はヒイロにとっては歓迎すべきアクシデントだった。 いそがしい彼は、それでもパイロット達の中では一番皆と連絡を取り合っていて、会いたいと、連絡の折りには必ずのように零していた。 それが今回、丁度地球に来ていて、仕事上の急のキャンセルによって時間が空くという事になった。そこで、そういえば今はトロワも臨時でこちらに来ている事を思い出し、プリベンターにいる五飛とトロワの二人に会いに来ていたのだという。 本当に、一度に4人が集まれたその事自体は、余りにもいいタイミングの幸運といっていいだろう……だが、今から彼らに話すべき内容を考えれば、ヒイロにとっては喜ぶなどという感情は少しも起りはしなかったのだが…。 「プリベンターに、ではなく、僕達に、話があるのですか?」 五飛に頼んで部屋を貸してもらい、デュオを除いた元Gのパイロットだけが、今ここには揃っていた。 状況だけでみれば、ここにヒイロが来たのはプリベンターの仕事の件であるのだから、Gパイロット同士の話としては、通常ならただの世間話程度で済む筈だった。…けれど、わざわざヒイロが自分から話があるといえば、事は重要な用件である事は誰もが分かる。 表情だけならば、内心の動揺を見せない自信はあった。 だが、それでも常ならぬ緊張した雰囲気を纏っていた事は、自分でも自覚があった。 そのヒイロの様子からか…いや、かつて通信で尋ねた事もあるからだろう、カトルは幾分か迷いながらも、すぐに思い立った事を尋ねてくる。 「…もしかして…デュオの事?」 ヒイロはそれに、すぐ肯定を返す。 他の二人が僅かに目を細めた。 その内容であれば、Gパイロットだけに話しがあるという事も理解できたのだろう、彼らの話を聞く雰囲気が変わる。 ヒイロは、いつもの彼らしく、表情もなく口を開いた。…少なくとも、表面上には、動揺を見せてはいない筈だった。 「デュオは、シルバーベルの子供と呼ばれていた一人だった…」 その声は淡々と。 けれども、ともすれば知った時の衝撃を思い出しそうになりそうな自分を制して、ヒイロはただ機械的に説明をはじめた。 かつて、シルバーベル教会にいた神父であり、スイーパーグループにも属していた男。 通称シルバー、教会に登録されている名ではエディ・S・グリーン。どちらにしろ、両方とも偽名らしい。その彼のグループ内での本当の役割は、スイーパーグループに置いても極秘扱いのものだった。 彼の特技は、催眠術。 仕事は、それを使って、兵士を育て上げる事。 それだけを聞けば、催眠術を使った洗脳処理だと思えるが、そういう単純な話ではない。 詳しい内容までは分からなかったものの、彼は催眠術と睡眠学習を組み合わせる事で、短期間で子供に兵士としての技能を覚えさせる方法を確立していた。その方法についての記録は結局見つける事は出来なかったものの、主に彼に与えられた仕事は、孤児としてつれて来られたただの子供を、出来るだけ短期間で最低限兵士として使えるレベルにまで育て上げる事だった。 だから、彼のスイーパーグループでの役割は、訓練官の一人に登録されていた。 もちろん、彼自身も、若い頃はスイーパーグループ内の戦闘要員の一人で、その技能を教える立場として、実際を知らない他の者達が不審に思う事などなかった。 「催眠学習による教育は、確かに訓練カリキュラムとしてはよく聞くが…、あくまで補佐的な部分や、知識として蓄積すべき部分に関しての事だな。…だが、催眠術を使う事でどう違うんだ?」 トロワの疑問はもっともだった。 ヒイロだって、Gパイロットの訓練の一環として、催眠学習によるものはいろいろ受けている。だから、催眠学習それ自体には、別段何か特別なものという事はないのだ。 「あまり詳しい事は分かっていないが…。催眠術というより、ある種の暗示を掛ける事で、学習効果を飛躍的に上げていたらしい。」 「飛躍的というのはどれくらいだ?」 「…個人差もあったようだがな、デュオの訓練期間は1年だったそうだ。」 それが一概に長かったのか短いのかは、訓練前のデュオを知らなければ話にならないだろうと思う。 だからヒイロは更に言葉を付け足す。 「デュオが、スイーパーグループに所属していたのは1年半。その内、Gパイロットとしての訓練期間は1年。半年はGに乗りながらの調整だ。スイーパーグループに入るまでのデュオは、マトモな教育を受けていなかった事はまだいいとして、殆ど銃を使った事もない、機械方面に少々強いただの子供だった。」 そこまで言えば、他の者達もあからさまでないにしろ驚きを表情に表す。 デュオのエージェントとしての優秀さは、ここにいるものなら皆分かっている。Gパイロットとして、どれほど多くの技能と知識、そして特殊な感覚が必要か。…そのどれをとっても、デュオは条件を満たすだけの力を持っていた。 言葉を返さない面々に向かって、ヒイロは言葉を続ける。 「もっとも、デュオの場合はGパイロット用の特殊例だったらしい。シルバーの教育方法なら、ただの子供をそれなりの戦力にするのに通常1月もあれば十分だったという話だ。」 しかも、その1ヶ月という期間になるのは、殆ど体力面のトレーニングのせいだと。 知識と技能、そして銃やMSを操縦する感覚をも頭に焼き付ける、それだけなら、1週間で通常の兵士レベルには出来るのだと。 ヒイロがそういえば、普段なら一番こういう話に納得がいかないといいそうな五飛が初めて口を開いた。 「何故、デュオが”シルバーベルの子供”だと分かった?」 なる程、そこまでは掴めているか。 ヒイロは五飛を一瞥して、その表情を確認する。 つまり、これが今回の件についてのトップシークレット。 元々、プリベンターが動いたのはこちらが本当の理由だったのだろう。特殊な方法によって大量生産された可能性のある、兵器としての子供達の現在の居場所と、その教育方法について。特に、その中心人物が組んでいた者が運送部門であった事から、作り上げられた少年兵が兵器の一つとして売られていた可能性に関して。 そちらに関しての調べ上げた資料ならば、既にレディに提出してある。そしてその件に関しては、……既にもう、問題にはなり得ないのだ。 「奴の持っていた十字架だ。あの教会の名とナンバーが入っている。スイーパーグループ内で、あの十字架を持っている事は”シルバーベルの子供”である印だ。」 それに気づいたからこそ、どうにか調べる事が出来た。 そして、だからこそ…分かってしまったのだ。 「もっとも…デュオ以外に”シルバーベルの子供”で現在生きている者はいない。」 口調は意識して出来るだけ押さえて。 だが、言葉としていう事がこんなにも苦しい。 「全て自殺だ。”シルバーベルの子供”は最初から役目の期間が決められて作られる。」 瞬間、場の空気が凍った。 スイーパーグループにとって、そうして即席に作られる兵士は、まさに使い捨ての駒だった。つくりあげた兵士よりも、”シルバーベルの子供”の秘密が漏れる事の方が重要だったのだ。 催眠術、というより催眠暗示が専門のシルバーなら、彼らに兵士としての教育とは別に、本人に意識せずある種の暗示をかける事が出来る。 各々に決められた期限。 その日が来たら、自殺するように、と。 「まさか…。」 顔を蒼白にして、カトルが呟く。 そこから先はいわなかった。…皆、いわなくてもわかっていた。 …そしてヒイロも…言葉にしたくはなかった。 ”シルバーベルの子供”は設定された日がくれば自殺するように作られている。 恐らく、デュオも、それに当てはまるのだ…。 BACK |