黒 の 主 〜冒険者の章・三〜





  【33】



 エレメンサ3匹とドラゴン1匹となれば、ポイントの入り方は尋常ではない。
 しかも山盛りの水晶魔鉱石はポイントもかなりだが、確かにとんでもなく金になった。
 初めて見る金額に焦りまくったエルは、持っているのが怖くなってすぐに事務局に金を預けに行ったくらいだ。……三人分の金を貰ってきた筈の男は平然としてはいたが。

「いや、悪かったな、なんかあまりの金額に持っててられなくてさ……」

 しかもこれから飲むつもりだったから酔って何かあったら困る、ととりあえず金だけ預けて急いでセイネリアが待つ酒場に戻ってきたエルは、そう言って黒い男に謝った。

「貧乏が染みついてるな」
「いやお前の方がおかしいって、平然としすぎだろ」

 いわゆる戦利品の類は冒険者事務局でも一括で買い取ってはくれるのだが、それぞれ専門の業者や欲しがっている本人に売りつけた方が高くなるのは当然である。今回の魔鉱石は買い取ってくれそうな魔法使いにアテがあるということでセイネリアに全て任せていたのだが、それから4日後、売れたから金を渡すと呼び出されたエルは渡されたあまりの金額にそのまま持っているのが怖くなってとりあえず酒が入る前に事務局に預けてきた……と言う訳である。

「俺から盗ろうとする強盗がいるなら見てみたいな」
「まーそりゃそうだけどよ……」

 この男の自信はそれだけの実力があるから文句を言う気はないが、危険を歓迎するようなところはちょっとこのまま付き合っていくのに躊躇する。というか今回はどれだけ寿命が縮んだんだろうと思うくらいで、このままこの男と組んでいたら心臓が持つのか自信がなくなった。

「いつまでも金のまま持っているから怖いんだ、さっさと何か買えば怖くなくなるぞ」

 冗談なのか本気なのか、軽く笑って言って来たその言葉に、エルは驚いて飲んでいた酒を吹きそうになった。

「……いや……お前まさかもうあの金額使ったっていうのか?」
「使い切ってはいないが四分の一は消えたな、装備を一新したらそれくらい飛ぶ。俺の場合、戦闘がある仕事に出ると大抵装備の交換か調整が必要になるからな」
「あー……まぁ、そうだろうなぁ」

 セイネリアの馬鹿力と無茶な動きぶりを知っていれば、一般冒険者向けの装備じゃすぐにイカレるのは想像出来る。

「ならこの機会にもういっそがっつりいい装備買えばいいじゃねーか」
「まぁそれもアリだがな、ただまだそこまではしなくてもいいかと思う理由もあってな」

 理由、と言われて聞き返すか一度迷ったエルだったが、いちいち聞いていたら本題に入れないと思ってそれは無視する事にした。今回は金を受け取る為に来たのも勿論だが、モーネス達の件で聞きたい事があるなら後日教えてやると言われていたから来たというのもあった。……帰ってきたその日の祝杯はエルも飲み過ぎていたから、あの場で話してもどうせ覚えてないと思われたんだろう……と、今なら思う。

「まぁそりゃいいや、んでだ、お前にはいろいろ聞きたいんだが……いいか?」
「あぁ、約束だからな、構わないぞ」

 彼は澄まして背もたれに片腕を掛けると、持っていたグラスに口を付けた。

「あの場じゃ面倒だからお前の顔を立てて納得した事にしたが、モーネスのジーサン連中を許したのはもっとちゃんとした理由があんだろ?」
「理由はあの場で言った通りだが。……もう少しいろいろ思惑があった、と言うならあるかな」
「んじゃ言え、俺ァまだあいつらにはムカついてるんだ」
「意外に根に持つタイプか?」
「茶化すな、思惑ってのを聞かせやがれ」

 それで睨めば彼は苦笑して、足を組むと機嫌が良さそうに話しだした……が、最初の一言だけでエルは椅子からずり落ちそうになった。

「単純に言えば、あのジジイはいわゆる善人だったからだ」




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カリンは相当ソレズド達にムカついていたらしいです。ちなみにレイペ神官は触ってきていないので蹴られなかった模様。

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