黒 の 主 〜冒険者の章・三〜 【26】 「さて、倒した証明品だけ取ってさっさと引き上げた方がいいだろうな、流石にこれでまたすぐ次が来たら俺も打つ手がない」 セイネリアはマントを外して手に持つと、ドラゴンの死骸に向かって歩きながら手に槍を呼ぶ。だがドラゴンの頭の前までくると振り返って、固まったように立っている老神官に向けて言った。 「あぁそうだ、なぁジジイ、どうせ上には予備の縄があるんだろ、下すように言っておいてくれないか? 勿論あんたはちゃんと上まで運んでやる、どうせ俺を殺すのは止める事にしたんだろ?」 セイネリアがそういっても、うつむいている老神官の口元は噛みしめるように更に固く閉じられるだけだった。 今の言葉に驚いたエルは思わず立ち上がって、老人とセイネリアの顔を見比べた。 「……おい、どういう事なんだ? 俺ァ話が見えないんだが」 セイネリアはそれに、名前を聞かれて答えるくらいの気軽さで言ってやる。 「なに、簡単な話だ、黒幕はそこのクソジジイだったというだけさ」 「……は?」 それにはエルが口を開けたまま固まった。セイネリアは笑う。そうして槍を振り上げるとドラゴンの頭を落とした。それを外したマントにくるみながら、まるで世間話のように楽し気に話を続けた。 「ソレズドの件だが、カリンに調べさせたところ少しひっかかることがあった。奴が組んだパーティではリパ神官が入っている事がまずなかった。それ自体は珍しい事ではないが、毎回5人以上のメンツで治癒の専門家がいないのは少しおかしい。……で、当日にになってこのジジィが入ってきた事でもしかして、と思った訳だ」 「……いやだからそれがどういう事だって」 エルはまだ理解できないのか思い切り眉を寄せて頭を押さえている。一方の老神官は黙って立っているだけだ。とぼけるか認めるか、さてどちらでくるかと思いながら、セイネリアはモーネスを一瞥だけして片手でドラゴンの首を持ちながら歩き出した。 「このジジィは、何度も今回のようにぎりぎりになって治癒役を追加したという事にしてついてきていたのさ。当日いきなりだから事前登録にはない、だから事務局の記録にも残っていない。そしてその時の面子はソレズドとジジィの仲間以外は全滅したか、もしくは仲間になったか口裏合わせに協力したかで誰もジジイの存在を申告はしてない。エル、お前だって思ったんだろ、こんなジジィが現役で出てくることがあるなら他の連中から聞いた事くらいある筈だと」 「あ、あぁまぁそりゃ……」 いっそはっきりソレズドの身内と紹介して、今回だけ特別に来てもらったとでも言えばよかったのにソレズドは他人のふりをした。だが老人は妙にソレズドを知っているような事を言っていたし、何よりまだその歳で何度も冒険者として現場に出ているような発言をしてしまった。それで顔の広いエルがまったく知らない、というのは余りにも不自然だ。 ドラゴンの足の前まで来たセイネリアは、今度はしゃがんでその爪をはがし始めた。それを見てエルも気づいたように倒したエレメンサの方へ向かっていいく。 「それにそもそも、ソレズドは小者過ぎだ。どうみても上級冒険者の器でもなければ、腕利きの冒険者だったろう者達をハメて殺す……なんて事、計画を立てる頭も腕もあるとは思えない」 「あー……うん、そりゃまぁ確かになぁ」 エルもそれには足を止めて、納得したという顔で苦笑してこちらを見てくる。 「大方、上級冒険者になるにもそのジジイがいろいろやってやったんだろうさ。例えば、そのジジイや他に仲間がいるのに一人で化け物退治をしたと申告して高ポイントを貰う……とかな。老獪なジジイならいろいろ思いつくだろ」 それもまず間違いないだろうとセイネリアは思っていた。そう思わないと納得できないくらいにソレズドは小者過ぎた。アレが多くの冒険者達が目指す星入りの上級冒険者と言うならあまりにもお粗末すぎる。使えないという事はないし腕も悪くはなさそうだが、アジェリアンと比べるとどれを取っても劣り過ぎていた。 --------------------------------------------- |