黒 の 主 〜冒険者の章・三〜





  【12】



「よし、一旦ここで休憩としよう。ここを登って向こうに下りれば現場だ、各自戦闘と採掘に必要な荷物以外はここに置いていってくれ」

 ソレズドの声に、皆は持っていた荷物を下す。とはいえここに残すために下した荷物は多くない。主に食料や飲み水、寝る時の上掛け用の布などで、さすがに全部をここに置いていく訳にはいかないから多少選別して荷物を作り直す必要があるだろう。

「話していても大丈夫か?」
「まぁな、大声は止めておいたほうがいいと思うが」

 ランプを置いて、少し粉を足して明るさを上げる。
 薄暗い洞窟の中ではあるが天井は高く、上るといった岩の上を見れば日の光らしきものが入っているのが分かった。おそらく登ったその先には外と繋がっている空間があるのだろう。そこが目的地というところかとセイネリアは思う。

 リシェから船に2日程乗って南下しウラネージという港町に下りた一行は、そこで一晩の宿を取ってから早朝に街を出て岩山の連立する一帯にやってきた。そこからある洞窟に入って夜を明かし、また早朝から洞窟の奥へと進んでこうしてここまでやってきたという訳だった。

「さって、いよいよ壁の向こうはエレメンサがいるって訳か」

 エルが座って腰につけた水袋から一口水を飲む。
 セイネリアはこれから登る岩壁とそこに掛けられた縄を見て、エルと同じく座って一息ついているモーネスに声を掛けた。

「ここは俺がジジイを背負って登ったほうがいいだろうな」

 言えば老神官は、いいのか、と聞いてくる。セイネリアは平然と返した。

「構わん、ただ俺とあんたの二人分の体重に縄が耐えられない、というなら無理だが」
「それくらいは大丈夫だ、一度に3人が掴まっても問題なかったからな」

 ソレズドがやってきて、セイネリアの肩を軽く叩いて来る。相変わらず薄ら寒い笑顔だとは思ったが流石に慣れた。座り込むことでさりげなくソレズドの手を外し、セイネリアはパーティーリーダーに機嫌の良さそうな声で言ってやる。

「下見に来た時の経験談か。……この縄もその時に掛けたものか?」

 上から下りている縄は最初から掛かっていた。見ただけで割合新しいものだと分かるし、確かにかなり丈夫そうではある。

「あぁそうだ。向こうに下りる縄はこれから掛けるけどな。戦力的にその時は無理をしなかっただけで、下見時点で出来る限りの準備はしておいた」

 流石にそれは本当だろう。金目当てで来たのなら目的の鉱石がとれるまでは信用は出来る筈で、注意するのはその後か戦闘時だと考える。セイネリアは軽く顔に笑みを浮かべてソレズドに返した。

「なら問題ないな、一度言ったからにはジジイの面倒は見てやるさ」
「あぁ、頼む」

 それから一休憩の後、彼らは岩を登る事になった。





 縄はソレズドの言った通り十分な強度があり、8人とも問題なく岩を登り切ることが出来た。セイネリアは老人を背中に括り付けて登った為最後になって、上についた時には大半の者はそこから向こう側――エレメンサがいるだろう壁の穴の先を見ていた。

「運がいいぞ、今日はまだエレメンサがいない。今のうちにさっさと降りよう」
「やれやれ、登ったと思ったら今度は降りるのか」
「ジーサンはおぶられてただけじゃねぇか」
「いやいや、縄が食い込んでなかなか痛くてな」
「ンじゃ自分で降りるのかよ?」
「ここは余裕のありそうな兄さんにまた任すさ」

 モーネスのセリフにエルが返してそのやりとりに笑い声が起こる。
 穴の向こうは相当に広い空間が広がっていて、思った通り外に通じていた。ただだからといってそちら側から登ってくれば良かったと言えるものではなく、単に洞窟内の岩壁に大穴があいているだけの状態で下まで相当の高さがあるだろうから、これなら確かに飛んで来れるのでもなければ中の洞窟から登ってくるのが正解だと思えた。

「あんたは力があるだろ、縄を締めるのはあんたに任せるよ」

 言って渡された杭にセイネリアは縄を縛る。ついでにその杭を打ち込むのもセイネリアがやって、後は縄を垂らせば下へ行く準備は完了する。

「最初は俺とエズレンが降りる。安全を確認したら皆順に降りてくれ」

 それはパーティーリーダーとしては当然の発言で、勿論誰も異を唱えるものはいなかった。ソレズドがすぐに降り始めれば、指名された彼の固定パーティーのレイペ神官がそれに続く。ソレズドは慣れた様子でするすると縄を降りて行き、間もなく下に着いた。レイペ神官はそれよりは流石に遅れたが、神官とはいえ冒険者をするだけあって彼も間もなく下に到着する。そこから次にエルが降りて、カリンが降りて……最後はやはりセイネリアが老人を背負って降りた。





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