黒 の 主 〜冒険者の章・2〜 【5】 数対数、それが人と人が戦う戦争ではなく対魔物となれば、その戦闘は作業に近いなとセイネリアは思った。 「よし、これで5匹目っ」 「少ねぇな、こっちはもう8匹だぜ」 雑魚を殺して自慢し合う馬鹿どもを横目に、セイネリアはぐるりと周囲を見渡した。 密集した木々の合間、あちこちで戦闘音がする。悲鳴は殆ど人間のものではないから、ただ一方的にこちら側が虐殺しているだけに近いだろう。かなりの危険を予想してきたが拍子抜けで、あまり面白くない仕事だったなとセイネリアは思う。 国の募集による大規模化け物退治――この仕事が始まってから今日で三日が過ぎた。 樹海からあぶり出された連中は、基本は別の森や林など、やはり木々が密集する元の環境に近い場所へと逃げ込んだ。だから現状、その手の場所にあたりをつけて大人数でひたすら暴れまわるだけ、というのが討伐隊の仕事だった。 正直をいえば、せっかくの国の募集で一応は部隊編成もされているのに、随分とお粗末すぎるやり方だとセイネリアとしては失望しかなかった。ただそれならそれで、別の楽しみに切り替えるかと思っているところではあったが。 なにせせっかくこれだけの腕自慢達が集まっているのだ、その連中を観察しておけば後々の仕事で会った時に使える・使えないの判断材料に出来る。それに使える奴がいれば『知り合い』になっておくのも悪くない。 「おい、そっちいったぞ」 言われる前に気づいてはいたが、襲ってきた頭が不格好な程大きいヤマネコのような動物の牙をセイネリアは左腕の腕当てで止めるとそのまま振り払った。殴られたようになったそれは当然ながら吹っ飛ばされるが、やはり猫科の動物らしくうまく地面に着地する。 それでも、二度目はない。 今度は飛びついてくるそれをそのまま剣で斬り、手ごたえのないそれだった死体をつまらなそうにセイネリアは見下ろす。 一応今回の仕事の為、セイネリアは装備を一部新調してきた。さすがに全身鎧とはいかないものの一部が鉄で補強してある皮鎧と、こちらは鉄製の両足の脛当て、それと腕当ては篭手と一緒に左だけ作らせた。盾も考えたがどうせ長く持たないかと考えて、その分特に左腕の装備は厚めに作らせて盾替わりに使う事にしていた。さすがにこの歳になればあの鍛冶屋がくれた腕当てはもう使えなかったが、あれのおかげで腕当てで攻撃を弾くのには慣れていたというのもある。後は単純に、腕と足に鉄板がついていれば殴ったり蹴ったりする時の威力が上がる。なにせ今回は多数を相手にするのだ、雑魚なら武器を使わずとも殺せるくらいの準備はしてきた方がいいと思った。 だが今のところは、そこまで準備をしてきたのは少々気負いすぎたかと思える。 「しゃあぁっ、死にやがれ」 目先に居た男が叫ぶ。同時に、ぎしゃ、とカエルがつぶれたような声を上げて斬り殺される小動物じみた魔物を見て、セイネリアはため息をついた。 実のところセイネリアの殺した敵の数はまだ6匹と数としては少ない。というのもあまりにも雑魚だらけでやる気にならないからで、先ほどのように向かってきた敵以外は多少大きくて手ごたえがありそうなのを見つけた時だけ戦っているからだった。 --------------------------------------------- |