黒 の 主 〜冒険者の章〜





  【31】



「それはない。武器以外に魂を入れる事はないこともないが、杖だけは絶対にあり得ないんだ」
「どういうことだ?」

 魔法使いはそこで、考え込みながら頭を掻く。

「あー……一つには杖の構造上無理というのもあるんだが……魔剣などの魔法武器はな、魔力だけでなく制御役の魔法使い本人が中にいるから安定して魔法が発動出来る訳だ。それに別人の魔法が作用すると制御が狂う。だが使ってもらうには使用者との意識の同調は必要と……そういう訳で主に選ぶ相手は魔法を使わない者がいいんだ。神殿魔法ならまたちょっと別だが、魔法使い同士の魔法はぶつかって悪い事しか起こらない」

 魔法が日常にあるクリュースにおいて、防具であれば簡単な護符を張り付けた程度の安物から、製造の最初から魔法を使って作られた高価なものまで、魔法の篭ったものはあちこちに売られていて金さえあれば普通に手に入る。だが魔法を込めた武器は売られていない。その理由として知られているのは――武器の場合、使用者の意識が強く向けられる事や武器自体に血がよく触れる所為で、武器に魔法を込めてもすぐ狂って正しく発動出来なくなる――というモノだ。それを合わせて考えれば魔法使いの話は確かに理論的には納得出来る。……だが、納得できるからこそ思う事もある。

「あんたらとしては面倒なところだな。話を聞いたところ、魔法武器を使うのは魔法使い以外なのに、魔法武器の主となると本来は自動的にあんたが言うところの知らない方がいいという知識が手に入ってしまうのだろ?」

 それで、セイネリアはこの魔法使いの目的というのが分かった。

「だからこうして、あんたみたいなのが魔剣の主がどこまで知識を手に入れたかを確認しにこなくてはならなくなる」

 魔法使いは、今度はあからさまに顔を顰めて舌打ちした。

「そういう事だ、よく分かってるじゃないか」

 そこではっきり肯定するあたり、やはりこの魔法使いの言動は信用できるとみていいだろう。魔法使いは嫌いだが、それだけで全てを否定して思考停止する程セイネリアは馬鹿ではない。少なくともこの魔法使いの言う事は聞いておいた方がこちらの為だというのは間違ってはいないだろう。

「……納得したか? ……まぁ、俺が言える話はこんなものだろうな、質問があれば一応聞くが、答えられるかは内容によりけりだ」
「そうだな……」

 魔法使いは清々したという顔で胸を張り、セイネリアは考える。

「今はこれといった質問はないが、今後出る可能性はあるな」

 さっぱりした顔をしていた魔法使いの顔が、そこでまた嫌そうに顰められた。

「あんたはさっき言ったろ、もし何か知ってしまったら自分に言え、と。なら当然あんたと連絡を取る手段を教えてくれるんだろ? それなら何か疑問があってどうしても聞きたくなった時にはあんたに聞くさ。……下手に俺が自力で調べようとするより、あんた自身もその方が安心するんじゃないか?」

 魔法使いは顰められた顔のまま益々目を細めたが、やがてまた大きくため息と共に肩を落とすと嫌そうにそれを肯定した。

「まぁ確かにそうだが……まったく悪賢い男だな」
「そうでもないと俺の性格じゃそうそう生き残れない」

 今度は魔法使いは軽く吹き出して、それはそうだな、と笑って返してきた。

「とりあえず俺と連絡を取りたい時はな、街にいるどの魔法使いでもいいから『承認者ケサラン』と話したいと言えばいい、そうしたら俺が貴様のところに行ってやる」

 今度は機嫌よくそう言ってきた魔法使いに、セイネリアも笑って返す。

「随分御大層な名前だな」
「ぬかせ、若造め」
「やっぱりじいさんなんだな」
「……さて、なんのことでしょう?」

 最後はパーティーでの猫を被っていた時の口調に戻ったから、今度はセイネリアの方が軽く吹き出した。そうすれば魔法使いは背伸びをして、くるりと後ろを向くと澄まして歩きだす。

「さて、そろそろ帰らないと皆が心配すると思いますよ、貴方もそう思いませんか?」

 それには皮肉気味に苦笑して、セイネリアも同意して歩きだした。




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