黒 の 主 〜冒険者の章〜





  【26】



 数人での仕事の場合、食事時の準備として、森暮らしに慣れているセイネリアが獲物を取りにいく係になる事は多かった。割合危険な場所であってもセイネリアであれば一人でも問題ないだろうと判断されるから、専門の狩人がいる時でさえ狩り役はセイネリアになる事もあるくらいで今回はそのパターンだ。……なにせ、事前情報ではここは危険生物が多い地域の筈であったから。

 魔法使いは言った通り、基本的には大人しくセイネリアの後をついてくるだけだった。職業柄普段は引きこもり生活だろうに、道らしい道がないところを歩いていても普通についてきていたし、文句を言ってくることもなかった。
 狩は順調で、魔法使いお望みの鳥はすぐに手に入った。セイネリアはそこからもう少し奥へ行って丁度いい水場を見つけたところで肉を捌くことにした。作業を始めれば魔法使いは黙ってそれをただ見ていて……だから、いい加減聞いてみることにした。

「……で、あんたは俺に話があるんじゃないのか?」

 魔法使いは一瞬の間の後、のんびりと答える。

「おや、お気づきでしたか」
「あぁ、だからわざわざ鳥が食いたいと言い出して狩に付いてきたんだろ?」

 タヌキめ、と心で毒づきなからもセイネリアは魔法使いの顔を見ずに鳥の処理を続けた。

 このクリュースでは魔法が一般的に認められているとはいっても、魔法使いと人々が直接かかわる事は実はあまりない。魔法使いになるには生まれながらに魔力が高い必要があるから誰でもなれるという訳ではないし、魔法使いに弟子入りしても無事魔法使いになれる確率もそこまで高くないという。そうして魔法使いになれば、一部医者のような仕事をして人と関わって生活する者もいはするが、大抵は魔法の研究とやらにせいを出して人々と関わらず、金が必要な時だけ魔法アイテムを作って売って暮らすというのが大半だ。わざわざ冒険者として仕事をする魔法使いなどまずみないし、どちらかといえば冒険者にとっての魔法使いは今回のように依頼者の方に多いくらいだった。

「えぇそうです。……成程、だからすんなりついてくるのを了承したという事でしょうか。少し意外だったんですよ、貴方は私を警戒しているようでしたから」

 話し方自体が少し変わってのんびりした口調ではなくなった魔法使いに、セイネリアは不機嫌そうに答えた。

「貴様は何かおかしかったからな。引きこもり生活の魔法使いの割りに、へばることもなかったし」
「ふむ、演技がたりませんでしたか。まぁお荷物役というのは嫌でしたしね」
「若作りの演技が過ぎるな、じいさん」

 言えば、魔法使いの表情も声さえもががらりと変わる。

「失礼な男だな、魔槍持ちの勇者サマは」

 セイネリアは笑った。
 手元から目を離して魔法使いを見る。

 魔法使いの年齢は見た目で言えば20代半ばというところで、魔法使いの印である自分の背に近い程ある長い杖を持ち、少し丈が短めのローブ姿は背筋がぴんと伸びている。
 だが、魔法使いは見た目通りの年齢ではない、というのはこの国での常識でもある。
 魔法使いは見た目の若さを魔法である程度保てるというのはよく知られている事で、だからこの魔法使いにずっと感じていた違和感の一つは彼が見た目通りの年齢ではない所為だという確信はあった。

「あんたの目的はあの槍か?」
「その通り、いやぁ貴様が察しの良い人間で良かった、ちょっとした魔物くらいじゃ槍を呼ぼうとしないから、いっそ一人二人殺す覚悟で大物を呼ばなきゃならないかと思ってたところだ」

 魔物達の出方も妙に不自然に少しづつ強くなっているという感じだったから、それもわざとこの魔法使いが呼び寄せたか何かした奴だったのだろう。
 セイネリアは立ち上がって魔法使いに向き直った。

「成程、胡散臭いと思ったのは間違っていなかった訳だ。……ただ勘違いするな、誰も槍を呼んでやるとは言ってない。あの槍を見てどうしたいのか、あんたの目的をまず言って貰おうか」




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