黒 の 主 〜冒険者の章〜





  【14】



 セイネリアがグローディ卿に屋敷奪還を手伝う代わりに頼んだ事としては、例の4人を確保しておいて貰う事と共に、シェリザ卿の失脚が決まるまではセイネリア自身もグローディ卿のもとに置いて貰うことだった。最初はいかにも厄介者という感じでグローディ卿の客人をしていたセイネリアだったが、屋敷を取り戻してからは待遇が一変していたれりつくせりという生活を送る事が出来た。なにせグローディ卿としては悲願だった屋敷を取り戻した上、他の同じ境遇だった貴族達の復讐を果たす手伝いまですることになったのだ。彼らに恩を売れた所為で貴族間での彼の評価は上がりまくって、彼としては失意の底から一気に我が世の春が来たといったところだろう。どう考えてもした事に対しての見返りが大きすぎて、あんなケチな計画を立てた田舎貴族の男でさえ『やはり賞金は全額出すべきだ』と言いだすくらいに、グローディ卿は今回の件でセイネリにア相当感謝したらしい。

 ……とはいえ結局、セイネリアは賞金については約束通り半額だけを貰うことにした。ただ恩は十分に売れたから、代わりに今後何かあった場合彼に声を掛ければ喜んで協力してくれるだろう事は間違いない――まぁ、そこは恩というよりも成功体験をさせた、というのが実は大きいのだが。セイネリアに協力した所為で旨い思いが出来たという事実があるから、次に何か話を持ち掛けた場合もまたいい目にあえるのではないかと期待して快く協力してくれるという訳だ。恩や約束などというものは相手が誠実な人間でなければ大して役には立たないが、損得計算で動かすのなら相手が信用できなくても使える。
 ともかく、こういう金で買えない繋がりはいくら作っておいて損はなく、のちのちに役立ってくれるものだ。

 ちなみに、リヴド達4人については、シェリザ卿の件が終わってからただあっさりと開放した……ただし。

『開放ってどういうことだ?』
『言葉通り好きなところへ行っていいということだ』
『待てよ、シェリザ卿に今回の仕事がバレたのが分かったら俺らは……』
『その心配はない、絶対にな。お前達は何事もなかったように化け物退治終了の証書をもって首都へ帰ればいい』

 実際化け物を倒したのはセイネリア一人のおかげだが、グローディ卿にはパーティで討伐したという事にして証書を書いてもらっていた。

『……なんでだ、そこまでされると気味が悪ィ……どういうつもりだあんた』
『何、貴様らが馬鹿だったおかげで役に立ってもらえたからな、その礼だ。今回の件に関しては別に恨んでもいない、後で報復なぞする気もないから安心しろ』

 それでやっとほっと胸をなでおろした顔をしたリヴド達だったが、勿論そこで安堵までさせてやる気はなかった。

『ただ仕事仲間を裏切った、という事を俺が黙っててやっているというのは忘れるなよ』

 その一言を言っておくだけで、彼らもいざというときには使えるセイネリアの駒になった。一応奴らにも得はさせておいたから、こちらの言う事さえ聞けばそれなりの得はできると認識はさせられただろう。雑魚は雑魚なりに、小銭とちょっとの脅しで楽に操れるものだ。今回の件は、終わってみれば仕事の報酬以上にセイネリアには多くの成果があった。

――のだが。そうしてシェリザ卿周りの件が全て片付いてからやっと首都に返ってきたセイネリアだったが、実は手に入れた成果の割にセイネリアの気分は全く晴れやかではなかった。その理由は二つあった。

 まずセイネリアの思惑通り、シェリザ卿は失脚した。
 それどころか、そこから少し遅れて彼が自害したとの話をセイネリアはグローディ卿のもとで聞いていた。別段あの男の死に思うところはなかったし、罪悪感など欠片も感じなかったが、その死には手放しで喜べない話が含まれていた、それが一つ目の理由。

 そうしてもう一つの理由だが……セイネリアは首都に帰ってきて即不快な気分を味わう事になった。それは首都の門をくぐって真っ先に出迎えてくれたボーセリングの『犬』の所為で――つまりセイネリアは今回の件を素直に喜べないもう一つの理由の元凶である人物に、首都に着いた早々会わなくてはならなくなったのだ。そして当然、そこでセイネリアは予想の範疇とはいえ最悪の気分を味わう事になった。



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