黒 の 主 〜傭兵団の章二〜





  【22】



 その日の空模様は少なくとも晴れと言えるものではなかった。
 雨は降らないと聞いたが雲のせいで太陽が隠れ、明るい陽射しは届いていない。気分がいいとは世辞にも言えない空を眺めて、リオは大きく息を吐いた。
 訓練は続行している、勿論手抜きなんてする訳がない。セイネリアから教えてもらう度にメニューを増やしているから、やる事、やりたい事はいくらでもある。
 ただ少し、今日は気分が乗らない。
 気が抜けたとかやる気がない、という程ではないが自分の中で物足りなさがある。そしてその理由も分かっている……今日はセイネリアが早くから外出していて一度もその姿を見ていないからだ。

――これじゃ、マスターがいる時だけ真面目にやってる奴みたいじゃないか。

 ここ最近、一日一度はセイネリアと会って何かしら言ってもらっているから今一つ気分が上がらないのかもしれない。
 ちなみにリオは、セイネリアの指示で暫く団内の仕事と鍛錬に専念するようになっているため、冒険者としての仕事の予定は入っていない。別に仕事がなくても団内にいれば生活的に困らないが、張り合いという面では……やはりセイネリアから評価してもらう事が今の自分には張り合いだったのだろうと思う。
 それでも根が真面目なリオにとって、サボるというのは頭にない。
 とにかく体を動かして夢中になってしまえば関係ない筈だと、まずは基本の剣を振る。これは筋力の鍛錬でもあるから当然腕と足には重りをつけていた。

 だが、そうして暫く剣を振って、やっと集中してきた辺りでリオは自分が名前を呼ばれているのに気がついた。

「……ぉい、リオって、聞こえねぇのか?」

 そこでリオは剣を止めてそちらを向いた。少し離れた場所にいたのは同室のマギスとサダーザの2人で、リオは剣を腰に戻して手を振っている彼等の方へ向かう事にした。

「あぁ、すまない、聞こえてなかった。で、なんだ?」

 近くまでいってからそう言えば、マギスがニッと笑いながらやってきてこちらの肩を叩いてきた。

「ったく真面目すぎだろお前、あー俺達これからちょっと買い物に行くんだがよ、ついでに昼飯も食ってこようって話になってさ、だからお前も一緒にいかねぇか?」

 折角訓練に身が入ってきたところだった……のではあるが、それもまた途切れてしまったので、ここは彼等に付き合うのもいいかとリオは思う。それに丁度手入れ用の油や、滑り止めも補充しておきたいところだった。ついでに光石も補充しておこう等と、考えれば割合買っておきたいモノがあるのに気づく。

「そうだな、俺も買いたいものがある」
「んじゃ行こうぜ、最近中央広間近くに出てる店でパンに肉とかいろいろ詰めてるのを売ってるとこがあんだけどさ、それが結構美味くてオススメなんだよ」
「それなら昼飯はそれになるのか?」
「んー……食うのはどっかの酒場に入って、それは持ち帰ってもいいんじゃないか?」
「よく食うな」
「そりゃコイツの腹みればな」
「んだよ、体作るにはがっつり食わねぇとならないだろ!」
「まぁ確かに」

 騎士団から戻って冒険者に復帰した後、やたらと回りに騎士様と持ち上げられて少しばかりうんざりしたものだが、この傭兵団では騎士の称号程度では皆から一目置かれるなんて事はなかった。それは騎士でなくてもそれ以上の実力の者が何人もいるからというのが大きいのだろうが、リオとしてはそれも居心地が良くてこの団に入ってよかったと思っている事の一つだ。
 勿論ここの主であるセイネリアも、称号や出生、地位などの分かりやすい肩書きなんて気にせずあくまで実力で見てくれるから他の者もそれが当たり前になっているのもあるのだろう。

 そうしてリオは笑いながら、仲間達には準備をしてくるから待って欲しいと伝え、急いで部屋に戻る事にした。




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