黒 の 主 〜傭兵団の章二〜





  【18】



 結局、エルを襲撃した5人は全員を生きたまま捕まえる事が出来た。怪我はエルが治してやったが流石に足を折った奴だけは応急措置程度に留めて、団内のリパ神官が帰って来てからそいつに頼んだ。
 捕まった連中は基本的に従順で大人しかったが、尋問にはアルワナ信徒の女サーファを呼んだ。前に魔女の件でも頼んだ娼婦だが、セイネリアが情報屋を継いだ後に正式に店ごと配下にしたため今では彼女もカリンの部下になる。ラスハルカを呼ぶ事も考えたが、今回はそこまでする必要はないと判断した。現状ならまだ、身内で進めた方がいい。
 ちなみに自白させるならリパの告白の術の方が便利ではあるが、あれは神殿所属の正神官の中でもそれなりの地位にいる者しか使えないため、まずリパ神殿以外では使えないものである。

 そうして一通りの尋問が終わって、カリンの方で身元等を調べてから、幹部会議であらためて結果報告と話し合いをする事にした。

「まずボスが見覚えがあると言った人物ですが、名前はサスル・パネと言って確かにデルエン領出身で魔女ナリアーデのお気に入りだった人物でした。もう一人、ピズ・グラウというのもデルエン領の出身でした。ただこちらは魔女とは直接関連がなさそうです」
「サスルに誘われたか」
「おそらく」

 カリンの報告は更に続く。残り3人の内、2人はどうやらセイネリアが上級冒険者になった時に襲撃してきた連中の関係者で、最後の1人、弓役の者は、スザーナの人間で例の盗賊のふりをやっていた奴だったらしい。

「ガーネッドに問い合わせて確認を取りました。向こうでも調べてくれるそうです」

 しかしそうなると、間違いなくこちらに恨みがある連中が手を組んでいる、これは確定だ。となればやはり、問題となるのは一つ。

「で、そもそも誰が首謀者なのか、それは分かったのか?」

 今回アルワナの術を使わせたのは、彼らに話を持ち掛けた人間を特定するためである。だが、その問いにはカリンの表情が曇った。

「いえ、それはまだ。彼等にこの計画を勧めた、もしくは命令した人物がいないか聞いたのですが……どうやら彼等は連絡役というか……その連絡役も又聞きのような、間に何人もいる状態で言われているようなのです」
「となると、同じ人間から連絡を受けている訳でもなさそうだな。そして中心となっている人物の名は知らされていない、と」
「そうです、恨みがある人間が集まってこの傭兵団に制裁を加えようとしている、という風に話を持ち掛けられているだけで、誰が指示を出しているかは聞かされていないようです」

 セイネリアは少し考える。その間にエルが発言する。

「こっちも引き続き神殿で聞いてみてるんだがな、今のトコ噂話ではあれ以上おかしいって思う事は特になさそうでさ。んで今は訓練場に通ってる面子のチェックを主にしてる、毎日熱心に通ってるような奴がいたらそいつの事を知り合いに聞いてみる感じだな」

 この辺りエルはかなり機転が利く、普通ならあれこれ聞き回れば不審に思われる事もあるだろうが彼の場合その辺はうまくやっているのだろう。そして彼の目の付け所も悪くなかった、ただし少し範囲を広げる必要がある。

「エル、その熱心に通ってる奴だがな、最近の話だけじゃなくここ1年くらいの間でそういうのがいなかったか聞いてみてくれ。連中からすれば現状はもう実行段階に入ってる、アッテラ信徒繋がりで仲間集めをする段階は終わってるとも取れるだろ?」
「あぁ、確かにそうだな。ンじゃそれでちっと聞いてみるわ」

 現状は調査段階で、まだ動けるレベルではない。だから今回もまた、今後の指示だけを出して終わるしかないだろうとセイネリアは思った。

「カリン、又聞きとはいえ連中に話を持ってきた奴らの名は分かったんだろ? なら地道にそいつらを調べて繋がりを辿るしかない。もし何か分かったり、方針的に迷う事があれば都度聞いてこい。あとは現状の調査を続行だ」
「はい、わかりました」

 今出来る事と言えばその程度で、核心部分が分からないからどうにももやもやするものが残る。魔法使いにでも頼めばもっと有用な情報を手に入れる事は出来ると思うが、彼らにこの程度の事で借りを作る気はなかった。
 なにせ今のところ、敵は相当に用意周到ではあるが使う手はぬるすぎる。それはどんなに首謀者が上手くやっていても駒にロクな者がいないのが原因だろう。

――そもそも向うの駒は、俺を嵌めようとして嵌められたような馬鹿ばかりだろうからな。

 それでもセイネリアは彼等を軽く見るつもりはなかった。個々は使えなくても使う側の人間が有能であれば脅威になり得る。実際こちらに実害はまだ出ていないが、それなりに団の運営に支障が出ているのは確かだ。
 今のところこちらに恨みがありそうな人間の動きを片っ端から探っているが、その中でも怪しいのは所在不明となっている者ではあるのだろう。ただそれも思ったより多くいて絞るのが難しい状況だった。

――一度、ボーセリングのクソ親父に会ってくるか。

 尻尾を見せるような事はないだろうが、あの男の機嫌や細かいこちらへの反応から多少は見えるものがあるかもしれない。もしくは向うからこちらに『借り』を作るために情報提供をしてくる可能性もある。期待はしていないが、一度様子を見てくるだけの意味はあるだろうと、そこでセイネリアはカリンにボーセリング卿への伝言を頼む事にした。




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